そもそも、オレは会社を大きくしたいなんて気はまるでない。店舗を増やしてきたのは、独立するための店長としての経験をスタッフがしっかり積めるようにと考えてのこと。人が減ったならその分は店を減らして、緊張感のある「濃い」営業を保てるような、独立に必要な経験ができる規模にした方が理にかなっている。

 店を閉めるというと、周囲からは、うちの営業力が落ちているんじゃないかって思われるかもしれない――正直、オレもそれが嫌でしばらく踏み切れなかった。でも、「濃い」店のままで営業を続けられなきゃ、うちに独立するための勉強に来る子たちも意味がない。彼らが独立してまたびっくりするぐらいの繁盛店をつくることこそ、うちの店の原動力になるんだから、中途半端なことはやめようと思い直した。またうちで働きたいという子が集まって人が増えたときに、店を増やせばいいだけのことだからね。

 

OBが証明する「繁盛の方法」の正しさ

 営業力について言えば、ずっとうちの店で勉強してきたことさえきちんとやれば店は繁盛するってことは、うちを卒業したOBたちが証明してくれている。それも、特にお客さんを引き付ける力を持っている子だけじゃない。例えば、昨年独立して18坪の店を地方で開いた子の店の1日の売り上げは25万円。月25日の営業をしているから、月商は約630万円だ。店の周りはシャッター街なのにお客さんが集まる。特別な接客力があるわけじゃなくて、むしろ接客に悩んでいたような子の店なんだけど、強い営業に結びつく自分ができる方法を、少しずつうちで働いている間に温めていたんだ。今はやってみたいことがたくさんあるので、少しずつ試しているという。

 そこではね。クリームソースのパスタを出すと、その後で「ソースを付けて食べてくださいね」ってこんがり焼いて小さめに切ったトーストを出すの。それも、トーストには焼きゴテで店名まで入れている。ただ、パンを出すよりずっと魅力的だよね。トーストに焼きゴテで店名を入れてちょっと色気を出すっていう方法は、うちの店でも以前やっていたことなんだけどさ。現場を任せている店長たちはみんな新しいことを次々にやりたがるから、いつの間にか忘れてしまっていたりする。OBの子たちは自分の店を繁盛させるために、それまで勉強してきたことの中からどのアイデアを取り入れようかって必死でしょ。だから、うちで積み重ねてきた繁盛の方法を思い出したりするんだよね。

楽コーポレーションOB池谷直樹氏の店「酒場 日々(ひび)」(甲府市)で、クリームソースのパスタを食べた後のお客に出すトースト。焼きゴテで店名を入れている。シンプルなサービスだが、これだけでつまみの一品になるので、お客のお酒も進む(写真:大塚千春、以下同)
楽コーポレーションOB池谷直樹氏の店「酒場 日々(ひび)」(甲府市)で、クリームソースのパスタを食べた後のお客に出すトースト。焼きゴテで店名を入れている。シンプルなサービスだが、これだけでつまみの一品になるので、お客のお酒も進む(写真:大塚千春、以下同)

 毎月開く店長ミーティングでは、人が少なくなってきている分、アルバイトの子たちを強くしていこうと話している。人が減ると、アルバイトの子の作業が遅いのが気になったりして、どうしても怒ることが多くなるんだけど、まずは相手に感謝することから始めようって言ってね。アルバイトの子たちのいいところを見つけて、彼らを盛り上げていこうよって話しているんだ。

 

 例えば、厨房での仕事が遅いことにイライラしていたとしても、ちょっと視野を広げてみると、実はお客さんの席にある空いたお皿にはよく気が付いて素早く下げてくれていたりする。そうしたら、そこを「いいね」って褒めてあげると、自分の相手に対する姿勢が変わってくる。それで、怒る代わりに「料理を持っていくときは、こんなことを言うとお客さんが喜ぶよ」なんてアドバイスをする余裕ができる。ただ怒るより、そっちの方がいいに決まっているよね。

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