実はその子もさ。独立するちょっと前に働いている店に行ったら、すっかり笑顔が消えていてさ。自分より経験の浅いスタッフに命令ばかりしているの。だから、「おまえは命令しているより、笑っている方がいいぞ。大事なこと忘れてない?」って話してね。そうしたら、2、3日してオレのところに来て、「この前は、何を指摘されたのかよく分からなかったけど、思い出しました。前は自分に何もなかったからとりあえず笑っていたけど、今はできるつもりになっちゃって、笑顔を忘れていました」ってね。

スタッフの似顔絵と名前を書いた旧バンクーバー店内の一角。お客とスタッフの距離を縮めるためのちょっとしたアイデアだ
スタッフの似顔絵と名前を書いた旧バンクーバー店内の一角。お客とスタッフの距離を縮めるためのちょっとしたアイデアだ

世界のどこでも「楽しい店」で勝負

 そんな、めちゃめちゃで何もできない素敵な子が応募してくるのを期待しているわけじゃないけど(笑)、今度、米カリフォルニアのサンタモニカに店を出すことを決めた。目抜き通りからちょっと外れた、うちらしい場所にたまたま物件が出てね。

 西海岸は知り合いも店を出しているから、以前からよく色々な日本食店を見て回っていたんだけど、日本とは全く違って面白い。ラーメン店でも、店の中央に大きなバーがあって、それを囲むように席が置かれていたりする。お酒を飲む人は飲む人、食べる人は食べる人で席が分かれているんだよね。サンタモニカの店は、バンクーバー育ちの息子たちに任せると決めているんだけど、どんな店になるのか楽しみだ。

旧バンクーバー店内。サンタモニカ店は50坪と広いので、「バーを別に設けるなどお酒の売り方を考えたい」と宇野氏
旧バンクーバー店内。サンタモニカ店は50坪と広いので、「バーを別に設けるなどお酒の売り方を考えたい」と宇野氏

 20年ほど前、バンクーバーで店を出したときは「居酒屋」ってものがまだ現地の人になじみがなかった。店を始めた頃は、「寿司やすき焼きはない」と言うと、お客さんが帰っちゃったりした。欧米の人が考える日本食とオレたちがイメージする居酒屋料理にギャップがあったんだよね。年間訪日客が3000万人近い今では、アメリカ人の日本食に対するイメージも随分変わったと思うけど、やっぱり向こうの店を見ていると、昔から人気のあるテリヤキとかロール寿司とかがすごく売れている。視察もしながら、今、アメリカのお客さんはどんな日本食を求めているのか。それはちゃんと考えないとね、と息子たちと話している。

 一つだけ決まっているのはオープンキッチンにすること。それで、お客さんの目の前で調理して、接客して楽しませる。それが万国共通でお客さんに喜んでもらえる店にする、一番の方法だとオレは思うんだよね。

(構成:大塚千春、編集:日経トップリーダー