そういう風に、「できないヤツをどれだけ戦力にするか」と考えることが、オレたちにはものすごく重要だ。それは、店の子たちが独立した時の武器にもなる。うちの店で働いているときには大勢の助けがあるけど、独立したら自分1人。料理も接客も、今までとは同じにはできなくなるから、「できない新人」のために働かせていた頭が、役に立つんだよね。

一人前になっても忘れてはいけないこと

 独立して店を出すために、最近うちを出た子がいるんだけどね。その子も、何もできないので有名な子でさ。うちが以前、カナダのバンクーバーに店を構えていたときに現地で応募してきたんだけど、まず履歴書がひどくてさ。後で分かったんだけど、そいつはバンクーバーで同年代の日本人の子と一緒に住んでいたのね。それで、一緒に住んでいる子の履歴書を名前だけ変えて持ってきたの。同居していたのは、大学で英語を勉強している学生でさ。英語テストのTOEFLが何点とか書いてあるわけ。
 何もできなくたっていいけど英語を話せる接客スタッフが欲しかったから、「いいね、いいね」って採用してホールを任せたら、これが全然しゃべれない。「え? どうして?」って聞いたら、そんなことが判明してね。なんで、そうまでしてうちに来たかったのかを聞いたら、「まかないで、和食を食べて、味噌汁が飲みたかったんです」って言うの。めちゃくちゃでしょ(笑)。元々、漁師をやっていたというから、魚がさばけるのかといったら、これもできない。やってたのはシラス漁なんだよ。面白いよね。

楽コーポレーションが、以前出していたバンクーバー店の店内。居酒屋という業態が欧米でまだ知られていなかった頃に出店、繁盛店となった
楽コーポレーションが、以前出していたバンクーバー店の店内。居酒屋という業態が欧米でまだ知られていなかった頃に出店、繁盛店となった

 そんなヤツなんだけど、ものすごく周りに愛される子でね。送別会でも、「あんなに何もできなくて愛されたヤツはいない」って、みんなが口々に言うぐらい。とにかく笑顔がいい子でさ。入ってきたときは、「とにかく笑ってろ」と教えて、一生懸命、お客さんを満面の笑顔で迎えていた。居酒屋ってさ、そういうことが大事なんだよね。だって、ものすごくおいしい料理を出してくれても店主がいつもしかめっ面している店と、いつも気持ちいい笑顔で迎えてくれて心が晴れ晴れとするような店があったら、すばらしいというような料理じゃなくたって、笑顔がある店に行きたいよね。

次ページ 世界のどこでも「楽しい店」で勝負