料理や接客でも同じでさ。「できない」なら、自分ができることで何が「できる」かを考えればいい。お刺し身がうまく切れないなら、切り口が分からないような和え物にして出すとかさ。口下手だって、ハンコを作って毎日違う文字をメニューに押しておけば、色々な話ができて、お客さんとの距離を縮める接客をするきっかけになるわけじゃない。
 オレは「できない」ってことは、視点を変えれば、必ず「できる」に変えられると思うんだよね。

 例えば、足のすごく遅いヤツと速いヤツがいて、道の反対側の目的地にどっちが早く着くか競っていたとしよう。ところが、道は車通りが激しいので、速いヤツは車の流れがちょっと途絶えた瞬間にさっと反対側に渡れるけど、足が遅いヤツはそんな風にはできない。でもさ。渡る手段というのは絶対にあるわけで、横断歩道や歩道橋を探せば、時間はかかるけど確実に反対側に渡ることができる。だったら、速いヤツより前に歩き出して横断歩道とかから行けば、相手より先に目的地に着くことだってできるでしょ。

赤いスタンプがワンポイントになっている「くいもの屋 楽 経堂本店」のメニュー。「ハンコっていうのはすごく便利でさ。1つ押すだけで、そそるメニューができるんだよね」と宇野氏
赤いスタンプがワンポイントになっている「くいもの屋 楽 経堂本店」のメニュー。「ハンコっていうのはすごく便利でさ。1つ押すだけで、そそるメニューができるんだよね」と宇野氏

 オレの考え方のルーツは、おふくろなんだ。小学校4、5年の時一緒に上野に行って国立西洋美術館の前にあるロダンの「考える人」の彫刻を見たんだけどさ。おふくろが「隆史、これは何をしている人だと思う?」と聞いたので、オレは胸を張って「これは『考える人』だよ」って教科書通りに答えてさ。

 そうしたら、おふくろは「これが『考える人』だと思う? 男が物を考える時、こんな恰好はしません。顔をよく見なさい。眉間にしわが寄っているでしょ」って。それで、「これは、悩む人よ」と言われたんだ。多くは語らなかったけど、要するにおふくろは「自分の考え方をしてごらん」ということを教えてくれたんだと思う。それは、オレにとってものすごく大きな財産になっている。

 金沢で手伝う店はさ。今はとにかくメニュー数が多くて、「これを売りたい」ってものがはっきり見えない。デザートは6、7種類もあるんだけど、それぞれがそんなに出るのかなと思う。だったら、1日1種類しか出さないで、それを売ることに命をかけた方が、楽だし売れると思うんだよね。パスタなんかも、「イタリアンに負けないものを作ろう」って意気込んでいるんだけど、居酒屋がイタリアンと同じ土俵で競争をしてもしょうがない。もちろん、おいしくなきゃいけないけど、レストランじゃないんだから、お客さんが楽しい時間を過ごせる料理を作ればいいと思うんだ。
 だってうちの店に昔からあって、お客さんに愛されているメニューはさ。腕のある料理人じゃないとできないような料理じゃなくて、たらこキムチうどんだったりするわけ。酔っぱらってくると、実においしいんだよね。

 もっとも、本当に大事なのは、これと決めたメニューを一晩でどれだけ売るか目標を立てること。「今日は絶対10皿売るぞ」とかね。だって、最初に目標を設定していないと、達成できなかった時、「なぜ売れなかったのか」を考えない。この「なぜ」を考えることが、大切なんだよね。
 目標を決めると達成した時はアルバイトの子だって、「商品が売れるって楽しい」ってことを実感する。だから、金沢で一番おいしい店を作るのはムリでも、働いているスタッフがみな、ものすごく楽しいと思う店にはすぐにできる。スタッフ全員が楽しいと思っている店は、お客さんにも楽しさが伝わるでしょ。オレはそう思うんだ。

(構成:大塚千春、編集:日経トップリーダー

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