先の店は、街の中心部に系列店が数軒あってさ。実は今年から、店のテコ入れを手伝ってくれって頼まれた。店は町家を改装したりしていて雰囲気が良くてさ、売り上げもいいんだけど、もっと魅力的な店にしたいってことなんだよね。

 店の子たちは、アルバイトも含めてみんないい子でさ。ただ、すごく真面目なの。真面目な子っていうのは、物事をきっちりやろうとしたりする。でも、何かがきっちりできるようになるまで努力するのは時間もかかるし大変でしょ。だったら、今、自分の手元にある能力で何ができるかを考えた方がいいと思うんだよね。

金沢は割烹料理でも有名だが、「旅人は1万、2万円もする割烹料理より、人気の金沢おでんや地元の食材を楽しく気軽に食べられる店を求めているよね」と宇野氏。加賀野菜もお客を引き付ける食材の一つ(写真:金沢市観光協会)
金沢は割烹料理でも有名だが、「旅人は1万、2万円もする割烹料理より、人気の金沢おでんや地元の食材を楽しく気軽に食べられる店を求めているよね」と宇野氏。加賀野菜もお客を引き付ける食材の一つ(写真:金沢市観光協会)

 例えば、うちの店で以前、こんなことがあった。

 サンマの季節に店の子がメニューにサンマの絵を描きたいと言ってね。絵が下手なんで、オレに描いてくださいって頼みに来たんだ。でも、オレはまず、自分で描いてごらんって話したの。彼が頑張って描いて持ってきた絵は、どう見てもメザシ。それで、「これは何のつもりで描いたの?」って聞いたら、「これでもサンマのつもりです」って言うわけ。だから、「じゃあ、もう答えは出ているよね?」と話した。メザシの絵を描いて、その脇に「これでもサンマのつもりです!」って書けばいい。その方が、ただ上手なサンマの絵が描いてあるよりずっと面白いでしょ。お客さんにも楽しんでもらえるはずだ。

 絵が描けないなら魚拓にしたっていい。魚拓ってのは黒いもんだけど、虹色にしたりしてさ。うまく描けないなら、自分の今ある能力を使ってどう魅力的に見せられるかを考える。料理やサービスでも同じだよね。

 「うまくできないこと」ってのは、ハンデじゃなくてものすごい能力でもある。だって、メニューをきれいな文字や絵で飾ったってすごく目に留めてもらえるもんじゃなかったりする。だけど、下手だとそもそも絵では引き付けられないから、うまい子より、お客さんにいかに目に留めてもらえる絵にするかを一生懸命考えるわけでしょ。

 例えば、ダイコンやイモで簡単な文字ハンコを作ってさ。「デ」とか作ってメニューに押しておけば、お客さんは「なんで?」って思うわけじゃない。そうしたら、お客さんに理由を聞かれたりして、「アルバイトの女の子が(米俳優の)ディカプリオの大ファンなんです」なんて話をするきっかけにもなる。自分が「できない」ってことを突き詰めると、ものすごい武器が生まれる。