中小企業の再生事例に詳しい村松謙一弁護士(光麗法律事務所)に、日経トップリーダー2月号の企画で取材したとき「経営難に陥る企業のトップは、バランスシートに基づく経営が弱い人が多い」と指摘していた。

財務知識の欠如が問題

宮坂:今、金融機関は有望な融資先を探しているので、地元の名士や、取引先に大手企業がいる企業には、融資基準が緩みがち。そのため、負債の多い中小企業が思い切った投資をして、命取りになるケースは少なくない。

 ただ、やはり一義的には資金を借りた経営者の責任。バブル崩壊から四半世紀がたつのに、売り上げを増やすことが経営の本質と考えるトップがいまだにたくさんいる。逆に言えば、資金繰りや財務に詳しい経営者は、業績を大きく伸ばしている印象がある。

 ある中小製造業の経営者は、最新設備を次々に購入しているので、周囲から「そのうち潰れる」と言われていた。でも、裏ではものすごく緻密に計算していて、どのタイミングで買って、どのタイミングで売れば、そこそこの値段で売れて、いくら手元に残るかというシミュレーションをしている。

 だから、資金繰りは悪化しないし、技術はどんどん高度化し、単価が高く、難しい加工も引き受け、ている。そうした戦略が取れるかどうかは、大きな差だ。

堀場製作所の創業者、故堀場雅夫さんの「股裂きの刑」の話を思い出すね。創業当初は、赤字を恐れず、ひたすら前のめりに突っ走る資質が求められる。ただ、ある規模以上にするには、財務センスが不可欠。アグレッシブさと慎重さ、この矛盾する2つを経営者個人の中で両立できるか、つまり「股裂きの刑」に耐えられるかどうかが、経営者として重要──という話だった。破綻企業の経営者は、この両立が未熟な感がある。

久保:エイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長兼社長も、大胆なように見えて実はすごく緻密。ハウステンボスの再建を受諾したときも、負債を事実上なくした上で、再建だけに集中できるようにした。慎重さと大胆さが両立しているから、次々に事業を立ち上げられる。

井上:財務の関連でいえば、相変わらず、粉飾決算に手を染めている企業も多いね。破綻目前でにっちもさっちもいかなくて決算書を細工するのならまだしも、かなり古い時期から粉飾している企業もあってびっくりする。

 悪い決算を提出すると 「銀行から貸してもらえなくなる」という恐怖があるから数字をいじるのだろう。でも銀行からすると、全部さらけ出してもらったほうがいい。隠して土壇場になって「ウソでした」と言われると、もう手の施しようがない。

久保:ひと昔前のように、放漫経営で会社を潰すパターンは、あまり見られません。本業がじり貧になり、何とかしなければと経営者はもがいている。基本的に、破綻企業の経営者も真面目です。その努力の方向性の一つに、ぜひ計数管理能力を含めてほしい。

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