【解説】

 不思議なことに、瀧野専務は10年来の体の不調が治まりました。ドラッカー教授の一言がきっかけです。

「利益は、目的ではなく条件である」

 創業から十数年が経過し、増収を続けるも借入金も膨らみ、資金繰りが厳しい時期が続いていました。瀧野専務は利益を得ようと奔走し、工場では原価管理を徹底させました。いつの間にか利益を上げることが自己目的化し、大事なことを忘れていました。

 創業の志です。創業したころは、入院患者に快適な環境を提供するという明確な目的がありました。進むべき方向が明らかでした。しかし、利益に翻弄されるうち、会社も自分も進むべき方向を見失っていたのです。そのことで知らず知らずのうち、心身にも負担がかかっていたのでしょう。

 ドラッカー教授の言葉は、忘れていた創業の志を思い出させてくれました。

「利益の定義」で、経営は激変する

 瀧野専務はドラッカー教授の言葉に出合い、経営者として備えるべき基本的な道具を一つずつ揃えていきました。その道具とは、経営について考え、語る言葉です。例えば、こんな具合です。

「組織」が存在する「目的」を、「ミッション」と呼ぶ。
「組織」の役割は、「社会」のなかで「ミッション」を果たすことである。
「事業」は、「組織」が「ミッション」を果たすための「手段」である。
「事業」を通じて生み出す「利益」とは、「組織」が存続するための「条件」である。

 こうして瀧野専務は、基本的な言葉の定義を通じて、経営者には、組織の存在意義であるミッションと、存続の条件である利益を両立させることが求められていると知りました。

 企業は社会における道具です。社会で果たすべき役割があるから存在を許されているのです。

 所有者である株主の権利も、その限りにおいて行使を許されます。

 もちろん経営者は、所有者ではありません。経営者には、企業が社会における役割を果たせるよう、マネジメントすることが求められます。そのために企業を存続させねばなりません。

 利益は企業存続の燃料です。利益を上げたら、税金を払い、残余を内部に蓄積します。そんな内部留保の多寡が、危機に立たされたときに生き残れるかのカギ。その意味で利益は、未来のリスクをカバーする積み立て保険料です。

 ドラッカー教授は、利益についてこう言及しています。

 「利益とは企業存続の条件である。利益とは、未来の費用、事業を続けるための費用である」(『マネジメント[上]』)。

 「……この観点から見るならば、いわゆる利益なるものは存在しないことになる。事業存続のコストが存在するだけである」(『現代の経営[上]』)。

 マネジメントを担う経営者は、このような言葉の定義に敏感であるべきです。言葉をいかに用い、いかに自分の道具として使いこなすか。そのスキルに習熟したとき、経営者のなかで、これまでの常識が大きく転換され、劇的な成果があがることがあります。「利益」の定義が、瀧野専務にもたらした変化は、その好例です。

*参考文献 :『実践するドラッカー 利益とは何か』 佐藤等

(この記事は「日経トップリーダー」2015年7月号の記事を再編集しました)

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