【解説】

 「事業とは何か」と大上段に問われると、経営者でも意外に答えに窮する人が多いものです。

 経営者として、事業を営むに当たって、ドラッカー教授の「事業の定義」を知っていて損はない。むしろ、そらんじるほどに記憶にとどめてほしいと思うほどのものです。具体的には、このような定義です。

  「事業とは、市場において知識という資源を経済価値に転換するプロセスである」(『創造する経営者』)

 つまり、事業には、3つの要素があります。

 第1に、「プロセス」であること。つまり、いくつかの仕事や作業に分解することが可能であり、それらが連続して1つの事業を形づくっているということです。
 第2に、知識という資源を投入する「インプット」があること。経営資源といえばヒト、モノ、カネとよくいわれますが、より本質的な経営資源は知識です。会社の強みとはほとんどが、その会社に特有の知識を具体化したものです。
 第3に、経済価値を生み出す「アウトプット」があること。ドラッカー教授は、それを「成果」と呼び、その著作のなかで最も頻繁に登場するキーワードの1つです。

「成果」とは「顧客に起きた変化」である

 では、成果とは何か。教授の考えをかみくだいて表現すれば、「外の世界における変化」「顧客に起きた何らかの変化」です。そこで生まれる経済的価値が、報酬になります。

 北海道健誠社の瀧野専務は、第3の要素から、自社の事業を見直しました。

 「自社の顧客にとって、喜ばしい変化とは何か?」
 「顧客の顧客が増えることである」

 そう考えたとき、顧客である温泉ホテルが閑散期対策に困っていたことを思い出しました。

 そこで、第2の要素に戻って考えました。

 「自社の顧客を喜ばせるために投入できる経営資源は何か」
 「顧客の閑散期対策に役立ち、顧客の顧客を増やせる経営資源は何か」

 そこで思い出したのが、会員組織になっているクリーニング店の顧客でした。

 「では、顧客の経営課題と、自社の持つ経営資源をどうつなげるか」

 ここで事業の第1の要素である、プロセスに目を向けました。個人顧客であるクリーニング店の会員に、法人顧客である温泉ホテルを売り込む機会をつくろう。告知は自社のチラシの裏面を使おう。送迎には稼働していない時間帯がある自社のバスと運転手を使おう。バスの発着場所は、個人顧客にとって通い慣れたクリーニング店にすれば分かりやすい。ホテルには大浴場を開放してもらうだけでいい……。瞬く間に、事業のプロセスが出来上がりました。

 法人顧客に喜んでもらおうと始めた企画でしたが、結果的には、個人顧客の増加にもつながりました。まさにイノベーションです。イノベーションは、今ある経営資源を組み換えるだけでも可能です。必要なのは知恵。その知恵を絞り出すとき、教授の言葉は強力なヒントになります。

 (この記事は「日経トップリーダー」2015年5月号の記事を再編集しました)

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