要するに、お客様がバスに乗らないのは「不便」だからではない。「不安」だからでした。

 この発見が突破口になりました。

 とにかく、お客様の不安を解消しよう。そこでバスの乗り方を説明するパンフレットを作成して地元で配りました(下)。またケーブルテレビでバスの乗り方を説明するCMも流しました。

バスを利用しない地域住民へのヒアリングに基づき、「バスの乗り方」を詳細に説明するパンフレットを作成、配布した

 戸別訪問を重ねると、こんな要望も聞こえてきました。

 「病院に行くのにバスを使いたい」
 「スーパーにバスで行きたい」

 私たちは最初、不思議でなりませんでした。
 なぜなら、バス路線はすでに、主な病院やスーパーは必ず通るように設計されているからです。
 しかし、どの停留所の近くにどんな施設があるかが、地域住民の目には分かりにくかったのです。そこで、どの路線を使えば、どんな施設に行けるかを解説する「目的別時刻表」を作成しました。

 09年、最初の1路線の戸別訪問が終わりました。すると、この路線の利用者は約2割増えていました。

 この活動を翌年、翌々年と続け、路線を広げていくことで、11年、実に約40年ぶりに全体の利用客数が増加に転じたのです。

お客様の手段に徹する

 この取り組みを通じて、私は気づきました。

 バス会社を経営していると、ともするとバスを運行することが「目的」になってしまいます。しかし、お客様にとって、バスは「手段」に過ぎません。自分たちの都合や常識を脇に置き、お客様にとっての「良き手段」に徹することが、極めて重要です。

 ドラッカー教授も、こう言います。

 組織が存在するのは、組織それ自体のためではない。社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は目的ではなく手段である。(『マネジメント[上]』)

 ドラッカー教授は経営者に多くのことを教えてくれます。しかし、その言葉に私が納得したのは、自らの実践を通じてです。知識は行動に移してはじめて成果になります。

 私たちの取り組みは地道なものでした。奇抜なアイデアがなくても、大きな投資をしなくても、イノベーションは起こせます。自社にすでにある経営資源を丁寧に見直し、配分や組み合わせを工夫するだけで、大きな変化が生まれます。そうやって中小企業経営者が知恵を振り絞り、全国各地でイノベーションを起こせば、日本全体が元気になります。そう信じて私は今、全国の地方路線バスを活性化するという新しい挑戦を始めています。

野村社長(中央)と十勝バスの社員たち(写真:吉田サトル)

(構成:尾越まり恵)

今回、ご紹介した十勝バスの野村文吾社長をはじめ、ドラッカーに学んで成果をあげた人たちの物語を紹介する『ドラッカーを読んだら 会社が変わった!』が、発売中です。詳しくは、こちらから。