最初の停留所の見込み客は、バス停から半径200mほどの範囲に住む約300世帯の住人でした。私たちはそのご自宅を1軒1軒回る「戸別訪問」を実施しました。

 「路線バスに乗っていますか?」

 そう尋ねると、嫌になるくらい乗っていない人ばかりです。

 ただし、尋ねたお宅の約7割が玄関の扉を開けて、話をしてくれました。驚きました。なぜ見ず知らずの人のために玄関を開けてくれるのか。歯を食いしばって地元でバスを運行し続けてきた私たちへの信頼が残っている。チャンスはあると前向きに捉えました。

非顧客の声を聞く

 ドラッカー教授はこう言います。

 ほとんどあらゆる組織にとって、もっとも重要な情報は、顧客ではなく非顧客(ノンカスタマー)についてのものである。(『ネクスト・ソサエティ』)

 「非顧客」とは誰か。「顧客であっておかしくないにもかかわらず顧客になっていない人たち」です。我々にとって、まさにバスに乗らない地域住民のこと。彼らの声のなかに、必ずヒントがあるはずです。

 私は、バスを利用していないという地元の人たちに尋ねました。

「どうしてバスに乗っていただけないのですか?」

 大半の人が「行きたい方向への路線がない」などと答えます。

 「年1回でもいいんですよ。1回くらいなら、行きたい方向へ向かうバスがあるんじゃないですか?」。そう食らいつく私に、「うーん」と考え込んだある人が答えたのです。

 「よく考えたら、バスがどこに向かっているかを知らないんだ。前と後ろ、どちらから乗ればいいかも知らないし、料金も分からない。だから、ちょっと怖いんだよな」

 私は目が回るほど驚きました。そんな根本的なことすら知らなかったのか。あるいはしばらく乗らない間に忘れてしまったのか……。