では、どこから営業を始めるか。私たちは路線図を広げました。

 私は人通りの多い駅前から着手したいと考えていました。

 だが、社員が「ここからやりたい」と指差したのは、中心部から離れた小さな1つのバス停でした。

 カーッと頭に血が上りました。「そんなちっぽけな取り組みで、何が変えられるか!」と怒鳴りたかった。

 しかし、ぐっとこらえて、「よし、ここからやろう」と答えました。

 10年かけてやっと社員がやる気を見せたのです。とにかく一歩でも前に進みたかった。

 ただし、社員たちに1つ、お願いをしました。

 「最初は1つの停留所でいい。でも、もしここで成果が出たら、隣の停留所でもやろう。そうやって成果が出るたびに営業するエリアを広げて、1路線だけでも全停留所をやり切ろうね。それができたら、隣の路線でまた1つの停留所から始めようよ」

 ここまで譲歩すると、社員たちは「分かりました。やります」と約束してくれました。

イノベーションは小さく始める

 実は社員たちのほうが正しかったのです。

 後から知ったのですが、ドラッカー教授はこう説いています。

 イノベーションに成功するには小さくスタートしなければならない。
大がかりであってはならない。(『イノベーションと企業家精神』)

 小さく実験して、うまくいった方法を大きく展開するのがいい。その後、私たちが成功させた戦略は、まさにその通りでした。