しかしその後10年くらい、客室数は伸びていない。あくまでホテルは副業だったからだ。

 その頃、西田氏はハワイで分譲マンションを手掛けるなどしていたが、バブルが崩壊。本業の電気工事はうまくいかず、ビルの企画・設計も厳しい。そんな中、所有していたビルをすべて手放さなければならない事態に陥る。

 そこでかろうじて残ったのが、細々と手掛けていたホテル業。自前ではなく、建物をオーナーから借りてホテルを運営する“大家さん方式”で運営していたためだ。

 それまで30以上の事業に手を出し失敗してきた西田氏だったが、ここで心機一転。1996年に開催した東横イン創立10周年記念パーティーの席上、建設業から事業の軸足を変えて、「今後はビジネスホテル業に専念する」と宣言した。このときが本当の意味での東横インのスタートになった。

 そこから面白いように客室数が伸びていく。10周年のときわずか13店舗だったのが、5年後の15周年には3倍の39店舗まで増え、20周年で120店舗を達成。30周年を過ぎた今は国内外に260店舗を超えるまでに成長している。

都心でもシングル7800円が上限

 シングル1泊4500円という客室料金でスタートした東横イン。30年あまりが経過した現在の客室料金は、都心でもシングル1泊7800円(税別)を上限としている。地方の場合、さらに安い料金設定なので、シングルの全店平均価格は6000円程度だ。

 「この料金設定は安すぎるのではないか?」という声を社内外から聞くという。実際、東京や大阪などの大都市圏では近年、客室料金が高騰。東横インと同タイプの客室が2万~3万円で提供されていることもある。

 しかし、東横インは7800円という上限金額を守っていく方針だ。客室はいつも同じ、サービスも同じ、価格もほぼ同じ金額ということが、宿泊客の安心感につながると考えているからだ。

 「お客様には客室料金のことを気にせず、安心して東横インに泊まってほしい。この料金で、こんなにきれいな客室で、これほど温かい接客が受けられて、おいしい朝食まで食べられるのかと感じていただけるように、さらに値ごろ感を追求していきたい」と、東横インの黒田麻衣子社長は話す。

(この記事は、日経BP社『なぜか「クセになる」ホテル 東横インの秘密』を基に再構成しました)

・全5万室が同じ間取り
・毎朝、無料のおにぎりを提供
・ゴールデンウィークもお盆も値上げなし
・支配人の97・5%が女性
・「ガンダム風」と言われる制服 などなど
外観からロビー、客室、スタッフ、宿泊システムまで隅々まで考え抜かれた工夫がお客を呼ぶ!

ビジネスパーソンに人気のホテルの舞台裏には、顧客満足向上、収益力向上、生産性・モチベーション向上のヒントが満載。本書では、そんな東横インの様々な工夫、取り組みを徹底解説しています。