このところ景気に関わる指標で、よい話を聞きません。
為替の急激な変動、消費減、株安、鉱工業生産指数のマイナス、機械受注の大幅落ち込み、社会保障費増大による過去最大の歳出……。
このように景況感が悪い場合、2タイプの思考を持つ会社が存在します。
1.攻めずに守りに入るタイプ
2.他社が動かないので逆に攻めるタイプ
あなたの会社はどちらでしょうか?
「こんな状態だからこそ、攻めよう!」というストーリーのほうが、経済記事としては書きやすいかもしれません。けれど、誰もがアグレッシブに攻めるマインドになれるとは限りませんよね? 安心してください。実は「守備固め」のタイプでも、このような経済局面で採るべきブランディングやマーケティング手法があるのです。今回は、景気が悪くても成果が出せるマーケティングのやり方をお話しします。
身の回りを固めるのもマーケティングの役目
マーケティングは攻めるだけだと思っている人が多いのですが、攻めるだけでなく、身の回りを固めるのもマーケティングの役目です。
全ての企業に機会損失は存在します。
受注はもちろんのこと、お問い合わせや資料請求時でも、機会損失なしで100%パーフェクトなんてあり得ません。
例えば、BtoB企業のWEBサイトでの新規顧客からのお問い合わせの流れをイメージしてみましょう。
(1)まず、あなたの会社に気付きます。
(2)必要としている商品を見ます。
(3)商品の説明を読みます。
(4)気になったので問い合わせをしようとします。
(5)入力フォームに入力します。
(6)あなたの会社の担当者が顧客に返事をします。
(7)その中から商談に進む顧客に至ります。
機会損失はどれだけありますか?
では、この中であなたが「水漏れ(機会損失)しているな」というポイントを書き出してください。
いくつ挙がりましたか?
5個くらいしか見つからなければ、申し訳ありませんが「注意力不足」。10個書けたなら合格点、10個以上なら優秀な「機会損失解消の目」をお持ちです。
上記の1つの項目につき、必ず複数の機会損失項目が隠れています。
- BtoB企業だからといって、スマホの検索対策を疎かにしていませんか?
- ターゲット顧客が存在する場所(デジタル、アナログ)に、できるだけ多くの網を張っていますか?
- お問い合わせフォームに至る導線はしっかり確保されていますか?
- サイトの内容が、悩みを持ったターゲット顧客がうなずけるストーリーになっていますか?
- 顧客は悩みの解消をしたいのに、説明文ではあなたの会社の特徴ばかり羅列していませんか?
- 専門用語の使いすぎで、WEBページの離脱時間は早くないですか?
- 文章を読ませたあと、想定した通りにユーザーは次のボタンを押していますか?
- 入力フォームで、不必要なボタンをクリックするデザインになっていませんか?
- 入力フォームで必ずしも必要ではない情報を聞き出そうとしていませんか?
- サンキューページ(入力フォーム送信後に出るページ)が、味気ない「ありがとう」だけのページになっていませんか?
- 担当者がそのお問い合わせに返事をするのが半日後になっていませんか?
- 担当者はメールを送信した後、届いたことを確認していますか?
などなど、お問い合わせを獲得するまでの機会損失だけでも、普通に考えて30個以上の機会損失が隠れているのです。
お問い合わせだけでもこれだけの数です。他のマーケティング活動部分の機会損失総数を数えたら100を超えることも珍しくありません。事実、ある金融機関では、一連の機会損失モニタリング項目(デジタル、アナログ)は100以上ありました。そこで徹底的にPDCAサイクルを回したところ、前年同月比400~800%という個人向けローンの爆発的な仮申し込み獲得を達成したという例もあります。
機会損失を徹底的に解消することが先決
一般には、ひたすら広告や営業などのプッシュ的なアクションを続け、新規顧客の獲得に走るのが一般的です。
ところが、新規顧客を獲得するアクションより、バケツから水が漏れている穴をふさぐ=機会損失解消のほうが、実ははるかに効果的です。
それぞれのポイントを少しずつ改善するだけで、新規顧客は2倍になったりするからです。
簡単に計算してみました。
- WEBサイトを見た1000人のうち、お問い合わせ30件=お問い合わせ率3%
- お問い合わせ30件の中で、実際の商談が6件=商談率20%
- 商談6件から、本契約を3件獲得=契約率50%
と仮定します。
計算式にすると「1000人×0.03×0.2×0.5=3人」。1000人のWEBサイト閲覧者から3人の契約者が獲得できたということです。
ここで、よくある行動としては、焦って広告や営業テクニックを駆使して1000の母数をさらに増やそうとするのです。でも、そんなに簡単に母数が増えるなら苦労しませんよね?
ここでバケツの穴をふさいで水漏れを防ぐのです。機会損失を解消する行動で、1ポイントずつ上げていくのです。
例えば、改善アクションを取って、
お問い合わせ率が3%→5%
商談率が20%→28%
契約率はそのまま50%だったとします。
計算式では「1000人×0.05×0.28×0.5=7」
1000人のWEBサイトの閲覧者は変わらないものの、契約数は233%に! これが機会損失解消の力なのです。
逆に各段階のパーセンテージが変わらないとすると、7件の契約を取るためには2333人にWEBサイトを見てもらわないといけないハメになるのです。なんと2倍以上!
経営者とマーケティング活動の関わりの誤解
先ほどもお話ししたように、全ての企業に機会損失は存在します。
大上段の経営者マターの部分での機会損失もあれば、WEBサイトなどの戦術部分での機会損失もあります。
弊社が顧客企業のブランディングやマーケティングを担当するときに、その会社の経営陣がプロジェクトチームに入らないことは、今まで数多くの企業と携わってきた中でゼロです。非上場企業の場合だけでなく、東証一部上場企業でもです。
これは、アクションプランを経営陣が担う、ということではなく、マーケティングの実行に関するKPIを常時確認し、PDCAも理解する輪の中にいる、という役目です。つまり部下に任せっぱなしではなく、「刈り取る部分を経営トップこそ理解する」ということです。
経営陣が先頭を切って機会損失削除を推し進めるのか、それともノルマや数値の積み上げ目標を達成させる旧来の追い込み型手法のままか、結果は歴然としています。
例えばバケツの中に、上からどれだけ水を入れていても、下からどんどん水漏れするのであれば全体的には大きくなりませんね。
機会損失を細かく見つけていくのは、非常に根気がいる行動であり、かつテクニック(もちろんより精度を上げるツールも)が必要です。
多くの場合、面倒くさがって、細かい水漏れ箇所を探そうともしません。
繰り返すようですが、ブランディングはその会社・商品・サービスに「気付かれる」を作ることですから、全社的な経営陣も巻き込んだ施策になるのは当然です。
ところが、マーケティング段階になると、経営陣が関わったほうが理解の醸成も早く、スピーディーな投資・行動判断ができると頭では思っていても、なぜか「担当者の役目」となってしまうことが多いのです。
マーケティングの戦術実行は担当者の役目だと思いますが、全体の戦略に関しては経営陣が関与するほうがはるかに効果的なのです。
つまり、経営陣が先頭を切って機会損失解消のKPIを見ていく必要があるということです。
さらに、あまり調子のよくない市場で戦っている会社ですと、社員のモチベーションの低下は、パフォーマンスに表れます。
とても効果的だと考えられるマーケティング施策を採用しても、社員のモチベーションが低ければ効果は出ません。効果が出なければさらにモチベーションは沈んでいく、という負の力が働きます。
マーケティング活動は、経営に計数効果を生むだけでなく、社内の求心力も生み出す役目があるのです。
だからこそ景気が悪いときでも効果の出るマーケティングは、経営者が先頭を切って進めていくことが必須なのです。
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