田所:そうした失敗をしないためには、まずユーザーが抱える課題の仮説を立て、ユーザーの声を聞いて検証しながら、課題の質を高めていくことが大切です。例えば、想定したカスタマーを具体的にイメージできる「ペルソナ」(仮想のユーザー像)を定義して考えるのも一つの方法でしょう。

 なぜ、仮説がそんなに重要なのか。それは、仮説を立てる前は何が分からないのかさえ分からない状態だからです。ところが、仮説を立ててユーザーの話を聞きに行くと、そこで初めて、自分たちは何が分からないのか見えてくる。「無知の知」が得られるわけです。

 ユーザーの声を聞くときに注意すべき点があります。ユーザーは自分の抱える課題をうまく言葉にするのが苦手ということです。

 ユーザーが本当に欲しがっているものを見つけるには、ユーザーの生の声を集めるだけでは足りません。KJ法などの思考整理の技術を使って、言葉の裏に隠れた真のニーズを検証することが重要です。既に顕在化しているニーズだけでなく、ユーザーの声を深掘りして隠れたニーズを突きとめ、自社が持つ技術的なアドバンテージのシーズと結びつけられれば、大きな強みになります。

ユーザーの課題仮説を端から試せ

鎌田:私が支援してきたスタートアップは技術を基にした起業が多いのですが、当初は自分たちが持つ技術が何に使えるのか、解決すべき課題が何なのか大抵分かっていません。

 だから、私は「ユーザーにお願いして、考えたことを端から試せ」と言っています。これが意外と効果的です。

 一つひとつの事例は深追いせずに、いろいろな業界に提案してみるのです。すると、どこかでお金を払っても試してみたいという人が出てきます。お金を払う以上、こうした人たちは真剣に内容を検討してくれます。こうした案件を1年に数件のペースで試していく。そうすると、スケールアウト(成長)できる分野が見えてきます。

田所:実際に、ユーザーの協力を得た実験がうまくいった例には、どんなものがありますか。

鎌田:インクジェットプリンターで「銀インク」を薄く印刷して回路を作る技術を持つエレファンテック(東京・中央)も、最初はいろいろな分野で提案をしました。DIYや教材への応用から始まり、すぐに年間数千万円の売り上げは立つようになったのですが、それらの分野は100倍に伸ばすことはできない。そこで、端からニーズを探す中で、製品の小型化などにより、電子基板の中で最も伸びているフレキシブル基板を正面から攻めることになりました。

鎌田代表が支援するエレファンテックが開発したフレキシブル基板。樹脂上の必要なところにインクジェットプリンターで金属の微粒子を塗布して回路をつくる(写真提供=エレファンテック)
鎌田代表が支援するエレファンテックが開発したフレキシブル基板。樹脂上の必要なところにインクジェットプリンターで金属の微粒子を塗布して回路をつくる(写真提供=エレファンテック)

 医療画像解析のエルピクセル(東京・文京)は、人工知能を使った画像解析の技術があります。最初は、画像中にある白血球など特定の細胞を数えたり、植物の種類を識別したり、いろいろな用途を試しました。その後、医療分野などにも提案して、CTスキャンやMRI(核磁気共鳴画像装置)などの医療画像を解析して診断を支援する分野にたどり着きました。これが市場としてスケール(拡大)しそうだ、となったのです。

 起業前は、研究者のための画像解析というアイデアだったので、ほとんどのメンターはスケールしないと判断していました。

 ただし、ユーザーの抱えているであろう課題仮説の構築に時間を無制限に使うことはできません。可能性のありそうな分野を素早く全て洗い出し、とにかく1年くらいは端から試す。遠回りのように見えて、最終的にはこれが一番早く結果が出ると思います。

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