鎌田:残念ながら、そうした投資の考え方はなかなか変わらないでしょう。そこで、私は、テクノロジーを基にしたスタートアップのチャレンジをみんなで応援していきたいと思っています。資金も必要ですが、スタートアップは顧客に商品やサービスを買ってもらうほうがありがたい。大企業や政府も、さらに私たちも、積極的にスタートアップの商品・サービスを購入するなどの応援をするようにすれば、企業として伸びやすくなります。

 大企業がスタートアップを買収するM&A(合併・買収)も日本ではまだ少ないのですが、昨年はKDDIがIoT通信プラットフォーム会社のソラコム(東京・世田谷)を買収しました。こうしたM&Aがもっと増えれば、大企業がスタートアップをスケールアップさせる役割を果たし、日本のスタートアップが世界で戦いやすくなります。

田所:M&Aは、スタートアップの創業者が億万長者になるという面もあるのですが、日本では彼らがなかなかエンジェル投資家に育たない。シリコンバレーなどでは、エンジェル投資家が年間2兆~3兆円も投資しています。

 日本でも資金を持つ人が、起業家に投資するという同じような循環が必要です。エンジェル投資家は起業経験があるので、起業家の失敗も理解できますし、メンターにもなれます。

 コロプラの元副社長である千葉功太郎さんや、IoT関連のスタートアップを支援するABBAlab(東京・千代田)の代表である小笠原治さんのようなエンジェル投資家がもっと現れ、投資額が今の10倍になったら、状況はかなり変わってくるでしょう。

技術者はユーザーの課題把握が苦手

今起業家を目指している人たちに向けて、どんなことを伝えたいですか。

鎌田:日本では、これまで優秀な研究者やエンジニアたちが起業することはあまり多くありませんでした。しかし、彼らは世界で戦えるレベルになり得ます。米国でもスタンフォード大学やMITで学んだ優秀な研究者・エンジニアがスタートアップを起業しています。

 ただし、研究者やエンジニアは論理的に仮説を立て、検証していくことは得意ですが、視野を広げてユーザーのニーズに合わせていくという考え方は苦手です。技術という素材がいくらよくても、「おいしい料理」に仕上げる腕がなければ、誰も食べられません。この点を忘れないようにすべきです。

「技術という素材がいいだけではおいしい料理は作れない」と、ユーザーのニーズを把握する重要性を語る鎌田氏。鎌田氏は、ソフトウエア・ベンチャーを共同創業し、東証マザーズに上場させた。その経験を生かし、スタートアップ支援や投資を手掛ける。著書に『<a href="http://amzn.to/2p67BQZ" target="_blank">テクノロジー・スタートアップが未来を創る―テック起業家をめざせ</a>』(東京大学出版会)
「技術という素材がいいだけではおいしい料理は作れない」と、ユーザーのニーズを把握する重要性を語る鎌田氏。鎌田氏は、ソフトウエア・ベンチャーを共同創業し、東証マザーズに上場させた。その経験を生かし、スタートアップ支援や投資を手掛ける。著書に『テクノロジー・スタートアップが未来を創る―テック起業家をめざせ』(東京大学出版会)

田所:私も同感です。起業家にとって大切なのは、ユーザー目線でストーリーをはっきり語れることです。それには、何より自分自身がユーザーになるのが一番いい。クラウド人事労務管理を手掛けるSmartHR(東京・千代田)の宮田昇始(しょうじ)代表は病気にかかって、その治療のため会社に休みを申請したら手続きが大変だったという自身の感じた痛みがストーリーになっているので、自社のプロダクトに強い思いがある。

鎌田:私が起業を狙う研究者やエンジニアに繰り返し言っているのはまさにそのことです。技術志向ではなく、自分ごととして課題をとらえなければユーザーには受け入れられない。

 研究にはオリジナリティーが大切なので、自分だけで考えることに価値があります。しかし、ユーザーが抱える課題を解決する売れるものをつくるにはユーザーの声に徹底して耳を傾けなければなりません。

 聞きまくることが大切なのですが、それを躊躇(ちゅうちょ)する研究者が多い。イノベーションは現場、つまりユーザーのそばでしか起こりません。ユーザーの間を走り回らなければ正解にはたどり着けないのです。

 それは、研究者にとって初めての体験ですが、プロトタイプをつくったら、ユーザーの元へと走り回り、フィードバックを受けなければ前に進むことはできません。自分1人だけの思い込みでは失敗する。いろいろな人に聞いて検証するプロセスが大事なのです。

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