強い意志とともに学ぶ姿勢も必要

スタートアップは、少額の投資でまず試してみることが大事なのですね。挑戦しているうちに見えてくることがある。

鎌田:私の持論は、それほどスタートアップにはお金もかからないのだから、まずは走り始めること。走りながら学べばいいのです。特に(テクノロジーを持って起業する)テック起業家は技術については分かっているのですから、経営については実際に会社を運営しながら学んでもよい。ある程度事業が育って、資金調達ができるような段階になったときにCFO(最高財務責任者)などを採用すればいいのです。今のようにスタートアップをやりやすいチャンスがあって、何もしないほうがもったいないと思います。

田所:シリコンバレーで成功している起業家たち、例えば、IPOを申請したばかりのDropbox(ドロップボックス)のドリュー・ヒューストン氏や、Airbnb(エアビーアンドビー)のブライアン・チェスキー氏などの創業者たちは、次第にCEO(最高経営責任者)としての能力を学んでいった。ヒューストン氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピューター・サイエンスを学んでいたので、マネジメントの知識は一夏に100冊もの本を読んで身に付けたそうです。

 優れた先輩起業家をメンター(指導役)とすることも成長につながります。ブライアン・チェスキー氏は、例えば著名な投資家のウォーレン・バフェット氏などをメンターとしてきました。自分より一回りも二回りも上の経営者から学び、組織を大きくするだけでなく自分自身も成長させていこうとする。そうしたメンタリティーのある人が経営者として伸びるのです。

「先輩経営者から全てを吸収しようという姿勢が成長につながる」と語る田所氏

鎌田:田所さんの言う通り、起業家の成長イコール事業の成長といえます。ですから、学習能力の高い人が最後は勝つ。もちろん、起業家には自信家であること、何が起きてもぶれない強い意志を持つことも必要ですが、一方で謙虚に学ぶ姿勢を併せ持つ人が伸びます。

 かつての起業家はワントップでカリスマ的な人が多かったかもしれませんが、最近の若い起業家はチームを大事にする人が増えてきました。周囲から学ぶ姿勢を持つ人が増えていると思います。

優れたメンターに出会うにはどうしたらいいのでしょうか。

鎌田:まず、我々のところに来てください(笑)。実際のところ、日本にはまだメンターが少ないのが実情です。ベンチャーキャピタル(VC)の担当者も金融業界出身の人が多く、起業経験のある人は少ない。日本のスタートアップがもっと成長して、その起業家たちが投資家になることが増えれば状況は変わってくるでしょう。今は、まず周囲で起業している人に相談するのが近道ではないでしょうか。

真面目な人ほど成果を急いでしまう

田所さんも鎌田さんも、著書の中で起業にはステップがあり、その「型」をまず学ぶべきだと話されています。やはり、基本を学ぶことがスタートアップで成功する近道になるのでしょうか。

鎌田:大半の人は初めてスタートアップの起業を経験するので、その過程で何が起きるのかをイメージしにくい。参考書もあるのですが、なかなか実感がわきにくい。そこを少しでも助けたいと思っています。田所さんの著書は、そのステップを具体的に書いているので、起業前に読んでおけば、遠回りを防げ、余計な時間のロスを減らせるでしょう。

田所:私の実感では、日本のスタートアップの創業者は8~9割が初めての起業だと思います。

 だから、真面目な人ほど最初から一生懸命やってしまう。何か形にしないといけないと焦って、取っつきやすいプロダクトやマーケティングマーケティングから始めてしまうので、うまく行かずにつまずいてしまう。一生懸命やるのはいいことですが、スタートアップが成功するには、まずユーザーが痛みを感じている課題を解決するビジネスモデルが必要です。その取り組むべき課題が見えない段階で、プロダクトを作っても意味がありません。

 私が著書で伝えたかったのは、プロトタイプづくりやマーケティングを始める前に、ユーザーの抱える課題をつかむための「実験」を徹底するということなんです。この実験を通じて、ユーザーの課題を解決でき、欲しいと感じてくれるプロダクトのヒントを見つけることができる。

 十分に課題を検証できていないうちに、プロダクトを作って伸びようとしてもうまく行きません。私も同じ失敗をしたことがありますが、「プリマチュア・スケーリング」(未成熟なままの拡大)に陥り、解決すべき課題やソリューションも定まらないうちに、人材採用を増やしたりして貴重な資金を無駄にしてしまうのです。

鎌田:まさにロジックを知っていれば、遠回りせずに済む。

田所:スタートアップに挑戦できる、あるいは挑戦したいと思っている潜在層はかなりいると思うのですが、基本的な型を理解せずに失敗することが多いのはもったいない。
 今、日本では起業しやすく、資金も集めやすくなっているのに、ユニコーン(企業価値が10億ドル以上で非上場のベンチャー企業)がまだ少なすぎます。中国では50社以上、インドで10社ほどあるのに比べても少なすぎると思います。

中国やイスラエルなどが日本より多くユニコーンを生み出せる理由は何でしょうか。

鎌田:中国はまだ社会全体が豊かになっていく経済成長の中にいて、ある意味、何をやっても成功する段階です。日本のような成熟した国と比べるべきではないでしょう。イスラエルなどは、政府が自国の得意な分野で意図的にスタートアップを育てています。日本政府も高齢化社会への対応や自動運転、宇宙などの分野では政策的な支援を充実させ、世界からスタートアップを呼び込んで集積する努力をした方がいいと思います。

田所:ユニコーンが多い国と日本が決定的に違うのは、エンジェル投資家とM&A(合併・買収)の数でしょうか。まず、鎌田さんのような方があと100人出てくればだいぶ変わる。スタートアップを変えるのはやはりスタートアップ出身者でしょう。それに、DeNAや楽天のような大きく成長した企業がキャッシュを持って、M&Aを進めればスタートアップが成長できるチャンスが出てくると思います。

(構成:吉村克己、編集:日経トップリーダー

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