時代の波に乗らずに後悔したくない

スタートアップに詳しい2人が、今、国内で注目するのはどんな動きでしょうか。

田所:2000年代後半から、ネットサービスのスタートアップが多かったのですが、最近はフィンテックでの起業が増えています。

 少額からの資産運用サービスを提供するFOLIO(フォリオ、東京・千代田)が2018年1月に70億円を調達するなど、フィンテック分野で資金調達に成功しているところが目立ちます。

 2010年代初頭は、金融機関がフィンテックのスタートアップを外注先と見ているようなところがありましたが、今はスタートアップの価値を認め始めている。金融機関がスタートアップとともに自社の抱える課題の実証実験をする時代になりました。

 そこで、FOLIOの甲斐真一郎代表など、鎌田さんが指摘したように、大企業で働けば数千万円稼げそうな優秀な人たちがスタートアップを起業するようになった。フィンテック系の起業家たちはこうした参入のことを「サーフィン」と言っています。つまり時代の波に乗って挑戦しないと悔いが残るという感覚が強まっているのです。

 また、さまざまな規制緩和が進んでいることも、スタートアップを始めやすくなった理由でしょう。

 フィンテックだけでなく、人材支援と技術を組み合わせた「HR(ヒューマン・リソース)テック」、技術を活用して企業の規制対応コストを下げようという「レギュレーションテック」といった、さまざまな「○○テック」と呼ばれる新たな分野が成長しています。

 まさに、あらゆる分野でテクノロジー・スタートアップが立ち上がる時代になっています。

鎌田:いくつかの要因が重なって、テクノロジーを活用するハードルが下がってきました。まず、ソフトウエアの面では(さまざまなソフトのプログラムを公開する)オープンソースの流れが強まり、クラウドサービスなども低コストで利用できるようになりました。

田所:それが2000年代後半からのネット系スタートアップの増加につながりました。最近はハードウエアのスタートアップを取り巻く環境も変わっています。

鎌田:そうですね。ハードウエアについても、オープン化が進んできました。(マイクロコントローラーの)「Arduino(アルドゥイーノ)」や(超小型コンピューターボードの)「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」などが安く入手できます。

 これらは仕様が公開され、ソフト開発に必要なライブラリー(汎用プログラム集)も充実しています。ですから、ちょっとプログラムを書けば、簡単に目的とするハードウエアを作れるようになっています。

 かつては、自分が欲しいハードウエアを手に入れるには、基板をゼロから作るところから始め、プログラムも自分で最初から書くなどしないといけませんでした。それが、今はハードも使いやすいものがそろっています。コンピューターに取り付けるセンサー類もオープン・コミュニティーを探せばどこかに情報があり、安く手軽に手に入るようになりました。

 ハードウエアの外装も3Dプリンターで簡単に作れる。こうした装置も自分で買う必要はありません。こうした加工装置を借りられるテックショップやインキュベーション施設などが国内でも増えています。アイデアさえあれば、お金をかけずに、新しいロボットのプロトタイプ(試作品)ぐらいはすぐできるのです。

「ハードウエアのスタートアップも起業しやすくなった」と語る鎌田氏と、鎌田氏の著書『テクノロジー・スタートアップが未来を創る―テック起業家をめざせ』(東京大学出版会)