花王は11月、技術イノベーション説明会を開催した。グループで研究開発中の技術をまとめて発表するのは同社として初の試みだ。澤田道隆社長は、「消費者の価値観が多様化し、いろんな角度から商品を開発する必要がある。いろんな技術をいろんな切り口や形で使っていくことを考えた時、研究資産の活用の仕方を変えないといけない。技術をもっとオープンにし、いろんな連携をし、出口を広げていく。それがビジネスにつながり、社会への貢献にもつながる」と狙いを語る。

2019年に5つの技術を商品化
同社は50以上の基礎研究に取り組んでおり、説明会では来年商品化を計画している5つの技術を発表した。(1)肌の表面に極細の繊維を吹き付けて極薄の膜を形成する技術、(2)顔の皮脂から皮膚の状態を分析する技術、(3)白髪を自然な黒髪色に染める技術、(4)洗浄に不向きだったアブラヤシの果肉部から抽出した油脂を洗浄に適した成分に転換、汚れだけをしっかり落とし、かつ汚れをつきにくくする技術、(5)薄いプラスチックフィルムと空気でリサイクルしやすい容器をつくる技術──である。
1つ目は、「ネガティブに思っている皮膚の悩みを消せる可能性がある。今まで全く実現できなかったスキンケアのレベルに到達する新しい次元の化粧品」(長谷部佳宏・取締役専務執行役員)という人工皮膚の技術。ファンデーションなど化粧品と組み合わせてしみやしわを隠せる画期的な技術は見る者を驚かせた(デモ動画はこちら)。
花王は、持続的成長に必要なESG(環境・社会・ガバナンス)を経営の根幹に据え、企業価値のさらなる向上を目指している。今回、発表した技術も環境や社会への貢献を強く意識している。「『美』に関わる技術は、女性がワクワクする気持ちをさらに高め、生きる活力になる。技術をオープンにすれば、いろんな会社が環境や社会に貢献する活動を展開できる。我々が生業としている『きれいにする』という行為も、ESGの切り口で見れば、違うところに価値が広がっていく。きれいにする行為を簡便にすれば環境負荷の低減に役立ち、時間にゆとりができて家族団らんにあてられる」(澤田社長)。
環境への貢献が期待されるのが、シャンプーなどの容器として展開を検討している5つ目の技術である。世界で関心が高まっている「海洋プラスチック」問題の解決策としても注目を集めそうだ。日用品や食品の容器・包装は、詰め替え商品などを除いて、レジ袋やペットボトルなどと同じく使い終わるとすぐに捨てられるケースが多い。こうした「シングルユース(使い捨て)」のプラスチック製品は、海洋汚染の原因になるとされ、世界で大きな問題になっている。英蘭ユニリーバやスイスのネスレは、2025年までにプラスチック製の容器や包装をリユース・リサイクルできるものに切り替える方針を打ち出している。
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