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 再保険大手のスイス・リーが今年7月、石炭関連事業を手がける企業への保険引き受けを制限する方針を打ち出し、産業界に波紋を広げている。

 保険会社が他の保険会社にリスクの一部を引き受けてもらう仕組みを「再保険」と呼ぶ。地震保険や貨物保険など保険金の支払いが巨額になりかねない保険が対象で、保険会社の支払いリスクを抑えるために損害保険で広く利用される。

 裏返せば、再保険の引き受けがなければ保険会社が補償額の大きな損害保険を引き受けづらくなり、企業は事業を手がけるリスクが高まる。企業にとり、保険による補償が手薄になることは、政府による規制とは異なる事業制約となる。

 スイス・リー グループCIO(最高投資責任者)のギード・フーレル氏に狙いを聞いた。

石炭事業に関わる新しい「石炭方針(Coal Policy)」はどのようなものか。

ギード・フーレル氏
スイス・リー
グループ・チーフ・インベストメント・オフィサー

フーレル:石炭火力発電事業や、発電燃料向け石炭採掘事業の売り上げが、総売上高の30%以上となる企業に対し、リスクの引き受けを原則、制限するか引き受けないというものだ。既に保険と再保険の引き受け事業に適用し始めた。

 我が社の気候変動に対する取り組みの一環で、低炭素経済への移行を積極的に支えたいとの狙いがある。 保険と再保険の引き受けのみならず、資産運用でも石炭に関わる投資を2016年初めから減らしている。

 具体的には、石炭採掘事業の売り上げが30%以上か、発電事業に占める石炭火力の割合が30%以上となる企業は、投資対象から除外(ダイベスト)している。

 除外した投資の合計額は約13億ドルに上る。現在の運用資産の総額は、1280億ドルになっている。

石炭への投資はリスク

石炭方針を導入した理由は。

フーレル:石炭関連事業に投資したり、保険を引き受けたりし続けることはリスクがあると考えている。

 気候リスクは我が社の資産価値にも影響を及ぼす可能性がある。投資家にとっての主要なリスクは、投資先となる企業や業界、国が置かれる環境が変化し、投資ポートフォリオが「座礁資産(価値が大きく毀損した資産のこと)」になることや、法律・税制の不利な変更によって投資評価損が起こることだ。

 我が社の経験では、ESGベンチマーク(評価のための基準)を資産運用に適用することが、長期的にみたリスク調整後のリターンの向上に貢献する。株式や社債に対する投資で使うベンチマークをESG考慮型に切り替えたのは、そうした理由からだ。

 ESGベンチマークを採用したことにより、ファンドマネジャーに対して、正しい企業価値評価の方法と、ESG投資への動機付けを与えることができた。

 現在の金融市場で見られるベンチマークは、石炭など環境に関わるリスクが十分に反映されているとは言い難い。投資家は自身の投資プロセスにおいて、いっそう積極的にESGを考慮に入れる必要がある。

 我々は責任ある投資を、3つの柱を軸に実施している。

 まず1つ目が、「強化」だ。ESGベンチマークをすべての資産運用に適用する。2つ目が「テーマに基づく投資」である。環境配慮事業に特化するグリーンボンド(環境債)のように、特定のテーマに基づく債券投資が一例だ。そして3つ目が「除外」である。座礁資産となるリスクの高いセクター(業種)や企業を特定し、投資や保険引き受けの停止を判断している。