卓越技術が日本外交の「切り札」

 日本は科学技術を通じ、世界で先導的な役割を果たすべきだと考えている。昨年5月に外務省が公表した「未来への提言」では、SDGsを通じた科学技術イノベーションが、外交の「切り札」になることを示した。

岸 輝雄 氏
外務省 外務大臣科学技術顧問 参与

 日本政府は2016年に、2020年以降を見据えた科学技術政策「第5期科学技術基本計画」を策定した。IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)を活用し、世界に先駆けて「超スマート社会」を実現する「ソサエティ5.0」という構想が核となっている。

 ソサエティ5.0が示すのは、経済発展と社会課題解決が両立した未来だ。エネルギー確保や高齢化社会への対応は、新興国にとっても遠くない未来の課題となる。こうした未来像を視野に日本が途上国と協働してイノベーションを起こすことがSDGsの実現につながる。

 外務省が科学技術顧問を置いたのは2015年9月だ。これは、科学技術が外交に役立つだけでなく、逆に、外交や国際協力が科学技術の発展に寄与すると考えているからだ。日本の科学技術は卓越したものがある。だからこそ外交で高い発言力がある。

 科学技術イノベーションの主役は企業だ。SDGsは経営者の目を「誰一人取り残さない社会」に向けるとともに、企業が持つ技術を整理するツールになる。自社の強みや弱みを認識できれば、既存の領域を超えたパートナーと連携して新しい価値を創造できるだろう。

 現在、科学技術の視点から見たSDGs達成のロードマップを作成している。他国に先駆けてSDGs達成の道筋を示し、2019年に開催される20カ国・地域(G20)首脳会議、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)、国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)の成果につなげたい。

イノベーションは起こせる

 SDGsの達成に欠かせないのが、企業によるイノベーションだ。イノベーションというと、「技術革新」や「新事業創出」と考える人が多いかもしれないが、それは間違っている。単なるものづくりやサービス提供ではなく、新たな「価値創出」と考えるべきだ。

西口 尚宏 氏
Japan Innovation Network 専務理事 イノベーション加速支援グループ長

 日本には優れた技術がたくさんあるが、ビジネスとして成功した例が少ない。それは、「その技術によってどのような価値を生み出せるのか」という問いかけが抜けているからだ。

 新たな価値というのは、「現状」と「在りたい姿」の差分にある。その中でSDGsは、「在りたい姿」を示したものだ。日本企業はゴールを決めるのが苦手だが、SDGsを活用することによってその手間を省ける。いったんゴールが決まると、そのゴールに向かって進む日本企業の実行力は天下一品だ。経営者はSDGsを経営戦略にうまく取り入れていくべきだ。

 イノベーションは意図的に起こすものである。トレーニングやスキルアップによって、イノベーション人材を育てる必要がある。イノベーション人材に求められる力は3つある。

 まずは対象を観察し、そこに潜んでいる問題を見つけ、問題を解決するためのアイデアを見いだす「デザイン思考力」。次に、顧客、チャネル、コストなど、実際のビジネスの現場に価値を落とし込む「ビジネスモデル構築力」。そして、試行錯誤を繰り返しながらビジネスを大きくしていく「リーンスタートアップ推進力」である。

 SDGsは、環境やCSRなど1つの部署だけが取り組んでも意味がない。研究開発部門やイノベーション推進部など、経営資源をつぎ込める部署と連携すべきだ。もちろん経営トップの強力なリーダーシップが欠かせない。

本記事は、「日経ESG」2018年12月号(11月8日発行)に掲載した内容を再編集したものです。