都市から排出される「ごみ」を丸ごと資源に変える。そんな「都市油田」が現実になろうとしている。積水化学工業は、都市の家庭ごみや産業廃棄物を分別せずに丸ごとエタノールに変える技術を開発した。埼玉県寄居町にあるごみ処理施設内にパイロットプラントを建設し、3年間の開発期間を経て、一般廃棄物と産業廃棄物として収集したごみからエタノールを製造している。

 目指すのは、化石資源に頼らない「究極の資源循環社会」の実現だ。日本で廃棄される可燃性のごみは年間約6000万tで、エネルギー換算すると約200兆kcalに相当する。一方、プラスチックとして利用される化石資源は年間約3000万tで、約150兆kcal。ごみを燃料に使い回せば、石油を輸入しなくてもプラスチック需要を満たすことができる。石油から精製するエタノールと比べても、十分にコスト競争力があるという。

積水化学工業のパイロットプラント(右)。家庭用のごみ(左上)を丸ごとガス化してエタノールを生成する(左下)
積水化学工業のパイロットプラント(右)。家庭用のごみ(左上)を丸ごとガス化してエタノールを生成する(左下)
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ガスと微生物を操る

 プラスチックのリサイクルには「分別」が常識だ。しかし、日常生活で使うあらゆる物に含まれているプラスチックをすべて分別するのは不可能である。ごみの成分は雑多で日によって変動も大きく、これがリサイクルの「壁」となっている。世界で問題となっている「海洋プラスチック問題」は、分別回収されなかったプラスチックの流出が原因である。

 積水化学工業の新技術で扱うごみは、レジ袋やペットボトルなどのプラスチックを含んでいても構わない。回収して処理さえできればエタノールに再生できる。これまでの常識を覆す「分別いらず」の技術が、世界のプラスチック問題を解決できる可能性を秘めている。

 なぜこうしたことができるのか。ごみをガス化してエタノール原料を収集する「ガス化技術」と、エタノールを生成する微生物を制御する「微生物触媒技術」に秘密がある。