財務に関わる「非財務情報」を

日本における取り組みをどう見る。

藤村:TCFDは昨年6月以来、最終提言を浸透(周知)させる期間として、投資家や企業に提言内容を適切に伝え、それを踏まえた情報開示や提言への支持を促す活動を進めてきた。この9月には投資家や企業による先進的な開示事例や政府などの主な動きを報告書にまとめる予定だ。

 日本では、FSBに対応する官庁である金融庁をはじめ、金融機関・企業との研究会を始めた経済産業省、支援事業を始めた環境省などが、TCFDを温暖化対策における日本の強みを世界に伝える機会と捉えて官民一体で対応していくとの気運が高まっている。6月には安倍晋三首相が議長となった「未来投資会議」の席で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の最高投資責任者(CIO)である水野弘道氏からもTCFD提言について言及された。

 TCFDは規制を伴わない民間の任意の取り組みではあるが、政府や政府系投資機関から重要性が唱えられることで、対応に意欲を見せる企業が増えている。これは日本に特徴的な動きだ。TCFDのウェブサイトには支持を表明した組織を随時紹介している。日本からは現在、金融機関と事業会社の23社が掲載されている(8月28日時点)。日本の積極的な対応を国際的に発信したい。

取り組みが難しいとの声もある。

藤村:今後も情報提供に努めたい。提言を巡る誤解もあり、正しく伝えていく必要があると感じている。

 誤解の1つ目は、「TCFDの提言はもっぱら財務情報の開示を求めている」というものだ。提言が求めるのは気候変動に関する企業のガバナンスの状況、戦略策定における気候変動の勘案状況、リスク管理の状況、そして目標や管理のための指標であり、財務情報そのものではない。財務に対してインパクトのある非財務情報が中心となっている。

 2つ目は、「シナリオ分析の結果として、収益予想などを精緻に、定量的に予測しなければならない」という誤解だ。最終的には、定量的な予測も必要になっていくと思う。だが、まず重要なことは、将来シナリオの下で事業が十分に持続可能であるかや、ビジネスチャンスを獲得できるかどうか、経営者を中心に社内で議論し、確認していくことだ。

 シナリオ分析の難しさが取り沙汰されるが、投資家は、企業が気候変動を踏まえて自社の事業の持続可能性を確保する意思があるかどうかの姿勢を第一に見ている。

 3つ目の誤解は「すぐに完璧な開示を行わなければならない」というものだ。TCFDも、企業が直ちに完璧な開示ができるとは考えていない。企業にとって気候変動への対応は、長期にわたる時間軸の中で進めることだ。情報開示も、3年程度の時間をかけて段階的に進めることを推奨している。

 1年目は、ガバナンスやリスクについて、既存の取り組みなどを開示することでも十分な対応といえる。

  例えば「気候変動対策を取締役会に報告している」「温室効果ガス排出量を管理している」などの情報を、ガバナンスの取り組みとして開示できる。また、既に気候リスクや機会を抽出している企業もあるだろう。2年目以降は、自社の取り組みと提言内容とのギャップを特定して、段階的に取り組めばいい。

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