「リーマンショックのように、世界経済を混乱に陥れる要因になる」──。20カ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会合は「気候変動」をそう位置付けている。リーマンショックから10年、気候変動が重大な経済リスクとして浮上してきた。

 同会合は2015年、世界の金融市場の秩序を守る「金融安定理事会(FSB)」に対し、金融市場は気候変動問題にどう対処すべきか、調査を託した。FSBが実働部隊として設けたのが、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」である。

 

 TCFDは昨年6月、企業と金融機関、投資家に向けて気候変動に関わる情報開示のルール(提言)をまとめた。このルールが企業に求めるのは、「2040年にCO2を大幅に減らす社会が到来したとき、生き残れるか」を、経営者が語ることだ。将来の社会像を描いた「シナリオ」を基に事業の行方を分析し、事業を継続するための戦略を立て、投資家に開示する。

 世界が低炭素社会に移行し、化石燃料の利用が制限された時、現在の事業は成り立つのか。洪水やハリケーン、気温上昇によって原料となる農作物の収穫量が減った時、事業継続のためにどのような手を打つか。そんな難問を、世界の大手企業は今、投資家から突き付けられている。

 TCFDの提言に基づいて気候変動に関わる情報を開示しようと、企業の試行錯誤が始まった。機関投資家など金融機関は、その開示情報を基に、気候変動リスクを投資判断に織り込もうと動き始めている。

 日本企業を代表してTCFDに参加する三菱商事の藤村武宏氏に、TCFDをめぐる世界の動向を聞いた。

藤村さんは、三菱商事のサステナビリティ推進部長を務めながら、日本企業を代表して「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に参加している。TCFDや、これを所管する「金融安定理事会(FSB)」の狙いは。

藤村 武宏氏
三菱商事
サステナビリティ推進部長
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)メンバー
1991年に三菱商事入社。企業法務や、経営戦略企画などの担当を経て、2016年4月に環境・CSR推進部長、同年10月に新設されたサステナビリティ推進部長。2018年1月、TCFDメンバーに就任(写真:中島 正之)

藤村:2015年のパリ協定の合意前後から気候変動に関する議論が国際的に高まり、世界で低炭素、脱炭素社会に向けた動きが本格化し始めた。
 外部環境として脱炭素化の動きが加速することにより、あらゆる産業にとって新たなリスクや機会が生じると想定されている。例えば外部環境の変化により資産価値が大きく毀損することを示す「座礁資産」という言葉もあり、世界において「2℃目標」(地球の気温上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑える目標)の達成のために省エネや燃料転換が進められると、化石燃料関連事業の収益性ならびに資産価値の劣化リスクが拡大するとの議論が聞かれ始めている。

 これらの新たな機会やリスクは2030年や2050年といった長期の時間軸で顕在化すると想定されるなかで、FSBは、金融業界がこうした将来への対応に備えず、突如、特にリスクが顕在化し、「第2のリーマンショック」として金融危機に陥ることを危惧している。

 そこでFSBは、世界の投資家や金融機関、事業会社などの代表が参加するTCFDを傘下に設置した。金融安定化のために、企業に対して脱炭素化の動きをリスクや機会として踏まえた戦略を立て、統一的な情報開示のルールに即して開示すること(金融市場として当該情報を織り込むこと)を促すのが目的だ。そしてTCFDは昨年6月、開示ガイドラインである「最終提言(Recommendations)」を発表した。