ESG(環境・社会・ガバナンス)に積極的に取り組む企業に投資する「ESG投資」が注目を集めている。ただ、ESGの取り組みが財務パフォーマンスにつながっているとは、一概には言えない。
野村アセットマネジメントが、世界の主要企業のESG評価と収益性の関係を分析した。その結果、短期的にはコスト要因となるが、長期的には収益を生み出すことがわかった。
例外が日本だ。ESG評価が高いほど収益性が低くなるという結果が出た。そこには、日本企業特有の3つの理由があるという。同社の担当者に聞いた。
ESG投資に力を入れる機関投資家が増えている。
今村敏之氏
野村アセットマネジメント責任投資調査部長。1994年に入社後、国内の公的年金基金向けの日本株式や外国株式の運用に従事。その後、ニューヨークで米国株式の調査や、ロンドンで外国株式ファンドの分析などを担当。2016年4月より現職(写真:中島正之)
今村:2000年代前半にESG投資が盛り上がったが、結局、長続きしなかった。それは、ESGと財務パフォーマンスの関係が不明瞭だったからだ。よく企業や投資家から「ESGが企業収益や投資リターンにどれだけ結び付いたのか」という質問を受ける。こうした質問があるうちは、ESG投資は根付かないだろう。
投資家が注目しているのは、投資先の企業価値だ。企業価値は、企業が生み出すであろう将来のフリーキャッュフロー(FCF)を現在価値に割り引いたものである。つまり知りたいのは、企業の「将来」だ。
財務情報はこれまでの事業活動の結果にすぎない。企業の将来を決めるのは、未来の企業活動であり、その多くは非財務情報である。ESG評価機関は、企業のこれまでの取り組みを評価していることが多い。ESG投資を根付かせるには、未来志向の情報開示や評価が必要となる。
日本企業の収益力が低い3つの理由
ESG評価が良い企業は、財務パフォーマンスも良いのか。
今村:一般的に、ESGの取り組みを進めると短期的にはコスト要因となるが、一定期間を経過すると収益を生み出す「Jカーブ効果」が得られる。当社で世界の主要企業のESG評価と収益の関係を分析したところ、確かにこの傾向が見られた。
例外が日本だ。日本の上場企業では、ESG評価が高い企業ほど収益性が低くなるという結果が出た。要因は3つある。1つ目は、日本企業のESG経営は始まったばかりで、Jカーブ効果の初期段階に位置していること。2つ目は、ESGの取り組みがコスト要因になっており、収益に結び付いていないこと。3つ目は、情報開示が不足していることである。
日本企業は、古くから環境、地域、従業員などを大事にする経営を実践してきたところが多い。ただ、社会貢献の側面が強く、そこで育んだブランド力などを収益につなげられていないのが実態ではないだろうか。
ESG情報を踏まえた企業との対話は進んでいるのか。
今村:企業とのコンタクト数は年間5000~6000件で、そのうち当社単独での個別対話は2000件ほどある。役員クラスとの対話はその約4割だ。ESG対話は年間200~300件で、年々増えている。将来の話をするには、経営トップに近いほど良い。投資判断では、経営トップとの対話を最大限活用するようにしている。
日本企業は、ESGのJカーブ効果を意識し、FCFの創出に結び付ける努力をすべきだ。将来のことは誰も分からない。だからこそ、経営トップの強い思いを知りたい。
これまで毎年4月に実施していた議決権行使基準の改定を秋に前倒しした。投資先との対話を早めに開始し、企業側の株主総会に向けた準備期間を長く確保するのが狙いだ。毎年の対話の継続が重要である。
本記事は、「
日経ESG」2018年7月号(6月8日発行)に掲載した内容を再編集したものです。
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