常勝サントリーが貫く原理原則とは
560企業ブランドのESG活動を消費者2万人が評価
日経ESG経営フォーラムが実施した「環境ブランド調査2018」(調査の概要はこちら)で、サントリーが2年連続、通算7度目の首位を獲得した。イオンは4年ぶりにトップスリーに返り咲き、アサヒ飲料は初のトップテン入りを果たした。一体何が消費者の心に深く刻まれたのか、注目企業6社の取り組みを詳細に分析した。
水との共生を「面」で伝える
サントリーは、本調査で2011年から5連覇を達成した後、2016年にトヨタ自動車に首位を明け渡したものの再び奪い返し、今回防衛に成功した。“常勝集団”が貫いている原理原則とは何なのかを見ていこう。
「サステナビリティの活動は継続することに意味がある。一朝一夕に結果が出てくるものではない」。サントリーホールディングスコーポレートサステナビリティ推進本部長コーポレートブランド戦略部長の福本ともみ執行役員はこう断言する。
同社は、2005年に「水と生きる」をコーポレートメッセージに掲げ、「水」に焦点を絞ってESG活動を推進してきた。その象徴である「天然水の森」活動は2003年の開始以来、累計約7000人の社員が業務の一環として水源地の森林を整備する体験研修に参加し、水の大切さを理解するとともに社外にも伝えている。
サントリーホールディングスコーポレートサステナビリティ推進本部長コーポレートブランド戦略部長の福本ともみ執行役員(写真:中島 正之)
小学生向けに10年以上続けている「水育」では、昨年から工場見学に参加した人たちにも対象を広げた。森を探検したり実験をしたりして、水や森の大切さを体感してもらうワークショップを実施している。参加者からは、「ここまで原料の水にこだわっているんですね」といった感動の声が挙がっているという。
消費者との接点を広げながら、サントリーがなぜ水を大切にしているかを「面」で伝えていることが本誌の調査結果にも表れているようだ。
サントリーは工場見学者向けにも「水育」のエッセンスを取り入れたワークショップを開催する
「サステナビリティの活動は定量的な成果が出るまでに時間がかかるため継続するのが容易でなく、社員の理解を得るのも容易ではない。そうした中でトップのコミットメントがあるのは大きい」(福本執行役員)
今年2月、水資源保全の国際的なイニシアティブである「The CEO Water Mandate」に新浪剛史社長が署名した。社員向けのウェブサイトでは、定期的に発信している佐治信忠会長と新浪社長のメッセージで水の話題を頻繁に取り上げている。
環境・CSR部門の名称を自社の活動の段階に応じて変えている点は、他社にない特徴といえるだろう。2010年には、環境の取り組みで企業価値を高めるためにエコ戦略部とした。その後、サステナビリティ戦略部に改め、今年4月にはコーポレートコミュニケーション本部を「コーポレートサステナビリティ推進本部」へ改称し、同本部内にあったサステナビリティ戦略部を「サステナビリティ推進部」に改組した。
この名称には、「コーポレート(全社)」で取り組むという意図が込められている。「戦略」を策定する段階から、「推進(実行)」していく段階に入るという意味合いを持たせたという。「名は体を表す」ということわざのごとく、組織名称がサントリーの社員の意識や行動に変化をもたらしている面もありそうだ。
活動強化と情報開示を両輪で
指数90台後半で突出している上位2社に対して、3~5位までは3社が80台で団子状態にある。その中で頭一つ抜け出したのがイオンだ。同社は昨年の7位から順位を上げ、昨年3位のパナソニックを抑えた。
イオンの評価には、昨年から今年にかけて相次いでESGに関する大型の発表をした影響があるとみられる。昨年4月に、農産物や畜産物、パーム油などについて持続可能な調達方針と2020年の目標を策定したのに続き、10月には食品廃棄物を2025年までに2015年度比で半減させる目標を策定。今年3月には、グループの店舗やオフィスから排出するCO2を2050年に実質ゼロにする目標などを盛り込んだ「イオン 脱炭素ビジョン2050」を発表した。
社会が要請するテーマに中長期で取り組み、それをタイムリーに発信する。こうした流れができるようになった背景には、役員の担当変えがある。昨年3月から、三宅香執行役が環境・社会貢献・PR・IR担当に就き、同社としては初めて、環境・社会貢献とPR・IRの担当を兼務するようになったという。これにより、環境・社会活動の強化と社外への情報発信を一体的に進めやすくなった。
高評価の要因として、「持続可能な魚」を使ったおにぎりも挙げられる。昨年12月にMSC(水産管理協議会)認証を取得した紅ザケとタラコのおにぎりをスーパーで発売。一番目立つ包装フィルムの前面に認証ロゴを印刷した。今年1月には、ミニストップでも発売した。顧客に特に人気のあるおにぎりにMSC認証の魚を使うことで、水産物の持続可能性への配慮をより多くの人に知ってもらえると判断した。フェアトレードの商品も業界に先駆けて発売し、ラインアップを拡充している。チョコレートやコーヒーなど約20品目を展開し、これらを専門に扱う店舗や売り場を16カ所で展開中だ。
イオングループ環境・社会貢献部の金丸治子部長は、「企業が発表したことが評価につながる。取り組んでいることは分かりやすく開示することが重要だ」と言う。
イオンはフェアトレードの商品を扱う専門店舗や売り場を16カ所で展開中だ
ESG活動を業績評価に反映
アサヒグループの健闘ぶりも光る。7位にアサヒビール、8位にアサヒ飲料が入った。特にアサヒ飲料は、昨年の25位から大きく順位を上げ、トップテンに食い込んだ。
清涼飲料事業を手掛ける同社の場合、ペットボトルでの環境配慮に対する消費者の関心が高い。アサヒ飲料は2016年から、ペットボトル、キャップ、ラベルのすべての資材の一部にバイオマス原料を採用した“オールバイオ”の「三ツ矢サイダー」を限定販売している。今年に入ってからは、1月に従来比約7~10%軽くした炭酸飲料のペットボトルキャップを発表し、4月には商品名やブランド名を印字したラベルを付けない同社初の「ラベルレス」のミネラルウオーターを発表するなど、ペットボトルの環境配慮を加速させている。
商品面での環境配慮に加えて、環境保全の大切さを知ってもらう出前授業を継続して実施している。環境・CSR部門だけでなく、営業など各事業部門から社員が講師として参加するのが特徴だ。さらに、出前授業をはじめとするESGの活動にどれだけ関わったかを、支社の業績評価に反映するようにした。
アサヒ飲料が全国の小学校で展開している出前授業。岸上克彦社長(写真右)も先生となって子供たちに環境保全の大切さを伝える
ESGの取り組み強化の背景には、昨年9月の組織改編がある。別々だった環境部門とCSR部門を統合してESG推進グループに衣替えした。10月には、北陸工場(富山県入善町)で初めて同社の主催で水源地の保全活動を実施している。取引先や地域住民など約60人が集まり、広葉樹の苗木を200本植えた。この活動は、地元の新聞やテレビで取り上げられ広く知られることになった。
アサヒ飲料コーポレートコミュニケーション部ESG推進グループの松沼彩子グループリーダーは、「当社は財務的価値と社会的価値の両立を目指している。社会貢献活動を実施しても知ってもらわなければ財務的価値に結び付かない」と話す。
事業との一体化で印象強まる
コスモ石油は、環境ブランド調査で3年ぶりにトップテンに復帰した。項目別に細かく見ると、「地球温暖化防止に努めている」で3位、「蓄エネ、創エネを進めている」でも16位と評価された。
「テレビCMで環境情報を入手した」と答えた人の数は、コスモ石油が最も多かった。テレビCMでは以前からグループ傘下の風力発電所の様子を伝えてきた。今回、温暖化対策に積極的な企業として支持を集めた背景には、風車を映し出すCMと、中期経営計画の報道の相乗効果で回答者の印象が強まったと考えられる。
今年3月に発表した第6次中期経営計画で、風力発電など再生可能エネルギー事業の強化を打ち出した。今後5年で930億円を洋上風力などの再エネ事業に投じる。発表後は、経済紙などがこの方針を報じた。
コスモ石油の評価は、消費者と共に継続している自然保護活動や地域の清掃活動にも下支えされている。活動を支えるのは、2002年から発行するコスモ・ザ・カード「エコ」(エコカード)を持つ6万3000人の会員だ。
会員から毎年集める500円の寄付と、サービスステーションの売り上げなどコスモエネルギーグループ企業の拠出金を合わせた「エコカード基金」を運営している。昨年度はNPOが展開する海外6件、国内8件の温暖化防止につながる森林保護活動などの資金に約6300万円を投じた。
お金を出して終わりではない。国内での活動には、NPOとともにエコカード会員が参加できる。
他に全国FM放送協議会の38局と協力して、全国の海などの清掃を17年続けている。650カ所で開催し、ラジオ視聴者など25万人が参加した。参加者には自然保護活動とコスモ石油のブランドが結び付いているだろう。
コスモグループは、「エコカード基金」を活用し、国内外の環境保全事業に資金を提供している
歯磨きを通じて親の共感呼ぶ
ライオンは、今回の調査で伸びが最も大きかった。
要因と考えられるのが、歯磨きなどの習慣化を子供達に啓発する「全国小学生歯みがき大会」だ。1932年から開催し、75回目となる今年の大会には日本と海外の約3800校、約21万人の小学生が参加。昨年の約16万人から急増した。昨年新たに始めた取り組みが教員らに注目された。
大会では、健康な歯や口内環境を保つ方法や続ける大切さを子供たちに伝える。これに、口内の健康は身体の健康につながり、夢や目標の達成にも大事なことと気づいてもらう工夫を加えた。「歯と自分をみがこう」と呼びかけ「未来宣言シール」を配布し、夢や目標を書き込んでもらう。子供たちは自宅に持ち帰ったシールを洗面台の鏡に張り、夢の実現や目標の達成に近づく一歩として歯を磨く。シールを目にした保護者にも、子供の健康に気を配るライオンの姿勢が伝わる。
ライオンが長年続けている「全国小学生歯みがき大会」
昨年発売した小児用歯ブラシの「クリニカkid’sハブラシ」も親の支持を集めたようだ。ブラシの軸に、曲がりやすく折れない素材を採用した。子供が口に歯ブラシを入れたまま転倒しても口中で曲がるので、口への負担を抑えられる。
発売に合わせ、子供の歯の「仕上げ磨き」に奮闘する母親の姿を描いた動画をインターネットで公開すると子を持つ親たちが共感。公開後の2週間で50万回再生された。歯ブラシの安全性が高まれば、子供の歯磨きで親の負担を減らせる。「安全性を訴えるだけでなく、保護者への共感や応援の気持ちを伝えたかった」とCSV推進部長の小笠原俊史氏は話す。
多様な働き方を認める
昨年から始めたSGイメージスコアランキングでは、トヨタ自動車、パナソニック、サントリーが1~3位に入り、上位3社は同じ顔ぶれだった。注目すべきは、10位に入った日本マクドナルドだろう。昨年の27位から躍進を遂げた。
けん引役と考えられるのが、女性から高齢者まで誰もが働きやすい職場作りに力を入れている点である。同社が運営するハンバーガー店は、アルバイトやパートの店員が勤務時間や曜日を自由に選べる。週ごとに自分の予定に合わせてシフトを提出、週2時間からでも働ける。
育児や家事との両立が壁になり、働きたくても働けない女性が全国に300万人以上いる。同社が主婦にアンケートをしたところ、働けない理由として、「希望する終業(始業)時間の募集が少ない」「希望する1日の就業時間の募集が少ない」といった時間に関する声が多く挙がった。
マクドナルドは今後も成長を続けていくために、事業の基盤となる店員の採用を増やす方針で、主婦をはじめとする潜在的な労働力を引き出すことが重要になっている。
同社の店舗では柔軟な働き方ができることをもっと多くの人に知ってもらえば、働くのをためらっている人の背中を押せる可能性がある。そこで、昨年から「クルー体験会」を始めた。ハンバーガーやドリンクの製造、模擬接客などを体験できる。
「どういう人達と一緒に働くのか分からない」といった心理的な不安から働くことに踏み出せない人もいる。現場を実際に見てもらい、そうした不安を取り除いてもらおうというのもクルー体験会の狙いだ。
日本マクドナルドが採用強化のために始めた「クルー体験会」。ハンバーガーやドリンクの製造などを実際に体験してもらう
今年2~5月にかけて実施した「ハッピーりぼーん」プロジェクトも、マクドナルドのSGイメージを引き上げた要因とみられる。環境省と共同で、「ハッピーセット」のおもちゃで遊ばなくなったものを回収し、店舗で使用するトレーにリサイクルする。このプロジェクトを通じて、子供のものを大切にする心や環境意識を醸成する。
BtoCの事業を手掛ける企業は、親子を巻き込むことが評価アップに大きく寄与しそうだ。
環境ブランド調査の概要
日経ESG経営フォーラムが、主要560の企業ブランドを対象に、各企業の環境に関する活動が一般の消費者やビジネスパーソンにどう伝わっているかについて、インターネットを利用してアンケート調査し、結果を集計・分析した。調査時期は2018年3月14日~4月22日で、全国の一般消費者およびビジネスパーソン2万1000人から回答を得た。調査は2000年から毎年実施しており、今回が19回目となる。企業ブランド名は2018年2月時点のもの。
<環境ブランド指数ランキングについて>
ランキングに使う「環境ブランド指数」は、企業のブランド形成に影響する4つの指標を総合したもので、偏差値(平均50)で表している。4つの指標とは、回答者が当該企業の環境情報に触れた度合いである「環境情報接触度」、環境報告書や各種メディアなどの環境情報の入手先を集計した「環境コミュニケーション指標」、環境面で当てはまると思われるイメージについて集計した「環境イメージ指標」、環境活動への評価を集計した「環境評価指標」である。
<SGイメージランキングについて>
SGイメージは2017年に調査を開始した。今回、選択肢の一部を変更し、回答者に対して560企業ブランドの「社会」「ガバナンス」に関する取り組みのプラスイメージ(12項目)とマイナスイメージ(7項目)を尋ね、SGイメージスコアを集計した。
本記事は、「日経ESG」2018年8月号(7月8日発行)に掲載した内容を再編集したものです。
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