労働者は携帯電話で苦情を直訴できる

サプライチェーンの労働者の人権を守ることが重要だと語るリッキー氏(写真:中島正之)
サプライチェーンの労働者の人権を守ることが重要だと語るリッキー氏(写真:中島正之)

自社の管理はもちろんですが、アパレル業界では委託生産が多く、サプライヤーの管理が大変です。サプライチェーンの人権や環境の配慮をどのように担保していますか。

リッキー:消費者に良い製品を提供するためには、自らの内部をしっかり正さないといけません。

 公正な労働と賃金、安全な労働環境を約束する契約をサプライヤーと結んでいます。世界で70人の専門家を動員し、年間1100件以上の監査をしています。2012年には業界で初めて、工場労働者向けに携帯電話の「SMS(ショートメール・サービス)ホットライン」を導入しました。サプライヤーの工場で労働や人権上の脅威を感じた際には従業員がSMSで苦情を訴えることができます。インドネシアやベトナム、カンボジアの工場に導入しています。

 環境配慮のためには、サプライヤーに技術的な挑戦をお願いすることもあります。再生ポリエステルやベターコットン、染料を使用しない製品の実現のために、第4次サプライヤーにまで様々な確認をしています。パーレイのシューズは原材料を切り替えたため、サプライヤーの協力なくしては実現できませんでした。

2013年にバングラデシュで、複数のアパレル製品を生産する縫製工場が入ったビルが崩壊し、多くの労働者が犠牲になりました。以来、アパレル業界では改革が進みました。

リッキー:我々のブランドは厳しい基準を設けているため、問題となった工場からは調達していませんでした。そこは明確に断言しておきます。あの時調達していたブランドは代償を払うことになったでしょう。

 消費者はファストファッションに安くて使い捨ての商品を求めます。そうすると企業は安い調達先に頼らざるを得なくなります。環境や安全、衛生、労働・人権の確保のためのコストを省いたサプライヤーに頼ると、そこで働く従業員は「現代奴隷」になってしまいます。

 そのことにアディダスは完全に反対しています。年間1100件以上も監査しているのは、環境や人権に配慮したプレミアム商品と公正・公平な労働環境の提供が両方とも重要だと考えるからです。違反したサプライヤーとは契約を打ち切りました。

 一方で人材開発も進めています。主要工場であるパキスタンのシャルコットでは女性の能力開発プログラムを開始し、生活と能力の向上の機会を1000人の女性に提供しました。

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