英蘭メジャー(国際石油資本)のロイヤル・ダッチ・シェルは4月、金融安定理事会(FSB)の気候関連情報開示タスクフォース(TCFD)が求める「シナリオ分析」をまとめた報告書を発表した。
シナリオ分析は、企業が独自に設定した「将来における社会や経済の絵姿(シナリオ)」に基づき、自社の現在の事業や保有資産を維持できることを示したり、新たな成長戦略を策定したりすることを指す。
シェルは、CO2など温室効果ガスの削減が求められる気候変動対策の世界的な進展が、同社の経営にどのように影響するかを分析した。この分析を世界の大手企業に対して推奨しているのが、20カ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会合の命を受けてFSBが招集した専門家チームのTCFDである。
シェル、BHPビリトンが動く
シェルは過去50年程度にわたり、将来における世界のエネルギー需給シナリオを作成し、事業戦略に生かしてきた。ところが、2016年に「パリ協定」が発効し、世界で気候変動への関心が高まる中、CO2排出のさらなる抑制が求められ、世界的に自動車のEV(電気自動車)シフトが進むなど、化石燃料を扱うシェルのビジネスへの風当たりも強まってきた。そこで今回の報告書で、シェルは気候変動が事業戦略に及ぼすリスクや、ビジネスチャンスを最大化する戦略、そして、そのリスク・チャンスの分析プロセスを開示した。
石炭や石油などに関わる事業や資産は、世界が低炭素社会に移行することで価値が大きく毀損する「座礁資産」になるとの見方もある。石炭利用の即時撤廃といった「脱炭素」を求める環境NGOの批判の的にもなっている。
同社は「スカイシナリオ」と呼ぶ新たな仮定に基づき、自社の将来事業の在り方や、取り巻く市場環境などを分析した。そのうえで、「現在の(同社保有資源のうち)石油とガス埋蔵量の約8割が2030年までに採掘される」などの予測から、「現在の資産ポートフォリオが、座礁資産となるリスクは低い」と説明した。
投資家が企業の開示情報をそのまま、うのみにする訳ではない。合理的で科学的な分析プロセスを経て導いたという「証拠」を示すため、分析の結果だけでなく、手法やプロセスを開示することが重要だ。
実際、化石資源への依存度の高い企業は、競うようにシナリオ分析を実施し、開示している。
例えば、豪英資源大手のBHPビリトンだ。主要事業は鉄鉱石や銅鉱石の採掘。原油や石炭などの資源開発も手掛ける。同社の分析によれば温暖化対策による化石資源の制約があろうと、2030年には事業全体で2倍近くの成長を遂げるという。

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