パナソニックの社員食堂のメニューにサステナブル・シーフードが登場した。ミニストップはMSC認証のサケのおにぎりを販売。五輪のレガシーとなりそうだ。
2018年3月22日、パナソニック大阪本社の社員食堂に「サステナブル・シーフード」と書かれたパネルやポスターが掲げられた。社員が興味深そうに眺めながらトレイを持って配膳口に並ぶ。SDGs(持続可能な開発目標)のロゴマークも見られる。この日、パナソニックは日本企業で初めて、社食のメニューにMSC(水産管理協議会)認証の魚を導入した。
パナソニックは3月から社員食堂にMSC認証やASC認証の魚を導入した。
MSCは海の生態系に配慮して持続可能に漁獲された「サステナブル・シーフード」を証明する認証。パナソニックはこのMSC認証の魚や、環境や人権に配慮して生産された養殖魚を示すASC(養殖水産管理協議会)認証の魚を同日から社食に導入した。2020年には国内事業所のすべての社食に導入する。
これまでサステナブル・シーフードの提供は、スーパーや一部の外食に限られており、消費者への大きな広がりはなかった。今回、大手電機メーカーのパナソニックが社食に採用した意義は大きい。同社の従業員は国内に10万5000人。社食は100以上ある。「社員が食べることで意識が変わり、スーパーでも認証魚を選ぶようになると、社会への波及効果がある」と同社CSR・社会文化部の福田里香部長は説明する。
2020年までに100カ所以上のすべての社員食堂に広げる
パナソニックは東京五輪の公式スポンサーだ。2017年3月に発表された五輪の持続可能な水産物の基準にはMSCやASC認証の魚も採用された。「社食を通じてサステナブル・シーフードを普及させることは五輪のレガシーづくりにつながる。SDGsの目標14『海の豊かさを守る』にも貢献できる」と、福田部長は導入の背景をそう語る。
食堂事業者のエームサービスや流通事業者には、認証魚を分別・管理するCoC認証を取得してもらった。国産のカツオやホタテ、海外産のサバなどを調達する。当面は月に1度、サステナブル・シーフードのメニューを1種類提供していく予定だ。
デパートで3世代に訴求
消費者に最も近いコンビニでも、サステナブル・シーフードの展開が始まった。ミニストップは2018年1月、MSC認証の紅ザケのおにぎりを東京・千葉・茨城の約300店舗で発売した。包装フィルムの前面に認証ロゴが印刷されている。おにぎりへの認証魚の採用はコンビニ業界初だ。
ミニストップに並ぶMSC認証の紅ザケのおにぎり。認証ロゴが目立つ
「コンビニの客は持続可能な食材への意識が高くない30?40代の男性が多い。認証魚への気付きを与え、持続可能性の取っ掛かりを作りたい」と第一商品本部米飯・調理パンチームの加藤里香氏は意気込む。
イオンも2017年12月、MSC認証の紅ザケとタラコのおにぎりを発売した。グループ傘下のミニストップはイオンと同じ原料を使うことでスケールメリットを出し、値段を通常のサケのおにぎりと同じ140円にした。委託生産工場の認証ロゴ使用料はミニストップが支払い、従業員教育を実施して実現にこぎ着けた。
セブン&アイホールディングス傘下のそごう・西武は、家族で訪れる傾向が強いデパートの強みを生かし、サステナブル・シーフードを訴求している。同社はアラスカシーフードマーケティング協会の「責任ある漁業管理(RFM)」認証の天然水産物を、2016年から販売してきた。RFM認証は、世界水産物持続可能性イニシアチブ(GSSI)から「FAO(国連食糧農業機関)のガイドラインに準拠している」と認定されたサステナブル・シーフードである。
有名シェフによる料理実演を交えてアラスカ産サステナブル・シーフードの店頭販売イベントを開催してきた。2017年は12回のイベントを開いた。「デパートは3世代が一緒に訪れる場所で、楽しい体験イベントは記憶に残る。イベント後に持続可能性の重要性を解説することで販売に結び付けている」。そごう・西武の加納澄子CSR・CSV推進室シニアオフィサーは手応えを感じている。
配合飼料で完全養殖マグロ
日本水産が発売した完全養殖クロマグロ。飼育時の餌を配合飼料に切り替えた
水産会社でもサステナブル・シーフードの生産が加速してきた。水産大手の日本水産は、MSC認証の水産物を用いた加工食品やASC認証のブリを生産・販売してきたが、2018年3月には完全養殖クロマグロを発売した。完全養殖マグロはマグロ資源に負荷をかけない一方で、飼育時に他の魚資源を餌として使うため「必ずしもサステナブルではない」という議論がある。そこで同社は餌を配合飼料に切り替え、魚資源への負荷を減らす取り組みを進めた。2018年度に7500匹、2019年度に2万匹の出荷を目指す。
完全養殖クロマグロは近畿大学やマルハニチロ、極洋も生産・販売しているが、日本水産は餌の改良や流通時の包装を工夫し、「マグロに含まれるビタミンEやイノシン酸を多くし、色の劣化も遅くした」と、養殖事業推進部担当執行役員の前橋知之氏は差別化の特徴を話す。ふ化後の餌は、イシダイやキスの子供を使わず配合飼料に置き換え、海のいけすに移した後の餌は、魚粉と植物タンパクから成る配合飼料などにした。
「完全養殖マグロの利点はトレーサビリティを確保できること。餌を配合飼料に置き換える努力を続ける」と前橋氏。五輪に向けサステナブル・シーフードの取り組みはサプライチェーン全体に広がってきた。
「日経ESG」2018年6月号の記事を転載
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