茨城県の南西部に立地する大和ハウス工業の竜ヶ崎工場。ここでは、重さ16kgもある衛生陶器(トイレ)を作業員がわけもなく持ち上げて運んでいる。その腰には見慣れない機器が装着されている。CYBERDYNE(茨城県つくば市)が開発したロボットスーツだ。
腰の負担を4割軽減
同社は今年4月10日、全国9工場でロボットスーツ30台を本格導入した。鉄骨や重たい部材の集積作業で作業員の負担を軽減する。狙いは人材の確保にある。日本の労働生産人口は1995年をピークに減り続けており、2030年には約8割まで減ると予測されている。大和ハウス工業竜ヶ崎工場長の平原和洋氏は、「竜ヶ崎工場がある茨城県の南西エリアは工場や物流施設が増えており、人の確保が難しくなっている」と打ち明ける。同工場ではまず、メーカーから仕入れたトイレや床材を邸宅別に仕分けする作業にロボットスーツを導入した。冒頭のトイレは1~2人の作業員が1日当たり30~40台運ぶほか、30kgある床材を2人で同200~250ケース運んでいる。
人材不足の問題を解消するためには、高齢者の雇用継続や女性の雇用促進が必要になる。ロボットスーツの採用は解決策の1つだ。
CYBERDYNEのロボットスーツ「HAL」を装着することで腰への負荷を最大約4割低減できるため、腰痛などの健康リスクを軽減できる。建設業では業務上発生する疾病のうち腰痛が最も多く、全体の約3割を占めるという。疾病やけがなどの労働災害が増えると、企業は保険料の負担が重くなる。労災リスクの軽減に加えて、人材確保の面でも「キツイ」作業を減らすことが大きな課題になっている。
大和ハウス工業営業本部ヒューマン・ケア事業推進部ロボット事業推進室東日本ソリューショングループの新倉昭人グループ長は、「東京五輪以降、労働力の確保はますます難しくなるだろう。例えば完全週休2日制を実現するなど、働きたい職場環境を実現できれば、宣伝をしたり給料を上げたりしなくても人を集められる。そのためにロボットスーツが必要だ」と言う。
ロボットスーツを装着して荷物を運ぶ大和ハウス工業竜ヶ崎工場の作業員。1日に200~250ケース運ぶという床材の重さは30kgにもなる(下)
ロボットスーツはレンタルで、料金は月額8万~10万円。賃上げなど人材確保にかかるコストや労災リスクなどを勘案して費用対効果を見極める。今後、ロボットスーツを使用した作業員の意見を聞くなどして効果を検証し、導入台数をどれだけ増やすかを決める。
「『働きやすい職場』から『働きたい職場』に変えることをスローガンに地道なことから始めている。ロボットスーツはまず4台使い始めていて、今後はできるだけたくさんの方に使ってもらいたい」(平原工場長)
大和ハウス工業は、耐火被覆材を鉄骨に吹き付けるロボットを開発した
現在は人が吹き付け作業をしているが、2019年からはロボットに置き換えていく方針だ
「3K(きつい・汚い・危険)」というイメージを持たれがちな建設現場も人材確保の悩みは深い。大和ハウス工業は、物流施設や工場、ホテルなどの建設工事で、最もキツイとされる耐火被覆の吹き付け作業にロボットを活用する。今年9月に竣工するダイワロイネットホテル東京有明(東京都江東区)の建設現場で実証実験を実施中だ。
鉄骨の柱や梁は火に弱いため、ロックウールなどの耐火被覆材を吹き付ける必要がある。飛散する被覆材から体を守るため顔まで覆い尽くした状態で、高い所でも作業をするので作業者の負担が大きい。そのため人材の確保が難しくなっている。
2019年度までにロボットの量産体制を確立し、労働力不足を乗り越える構えだ。導入には1台当たり数百万円かかるとみられるが、「まずは人の確保を優先する」(大和ハウス工業技術本部長生産購買本部長海外事業技術管掌の土田和人専務執行役員)と言う。
ロボットを積極的に活用し、省力化や工期の短縮を進める。2021年には完全週休2日制を実現することを目指す。土田専務は、「3Kの現場を新3Kの現場に変えて若者を呼び込む」と意気込む。「新3K」とは、高い「給料」、長い「休日」、「希望」が持てる産業を意味する。例えば、優秀な技能者を認定する社内制度を設けており、認定者には日当を3000円上乗せしている。
園芸用散水機をコンテナの冷却に
人手不足が特に深刻な物流業界でも、労働環境の改善が進む。TOTOの輸入貨物の輸送などを手掛ける小倉運送(北九州市)は、コンテナの屋根に水を噴霧して冷やす装置を自作した。コンテナは輸送中に長時間日光にさらされるため高温になる。コンテナ内の温度はセ氏40度を優に超えるという。コンテナにぎっしり積まれた荷物を降ろすのに2時間程度かかるので、作業員にとっては厳しい環境だ。
昨年、園芸用の散水機を改造した冷却装置を導入してからは、作業員たちは涼しい環境で荷降ろしができるようになった。スポット式の冷房や送風機を利用している業者はあるが、こうした装置を導入するのは珍しい。小倉運送小倉南営業部輸送センターの北代努係長は、「(他の業者に比べて快適な環境で作業できるので)派遣会社から何回も来てくれるリピーターの作業員もいる」と誇らしげに話す。
建設現場や物流現場をはじめ、労働力不足が深刻な職場で人材確保に向けた技術や知恵が求められている。
小倉運送が自作したコンテナの冷却装置。ホームセンターなどで売っている園芸用散水機を改造した
コンテナから荷物を降ろす作業員。コンテナは輸送中に日光にさらされるので、コンテナ内は放っておくと作業がしづらいほどの高温になる
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