一方、トカナは玉ネギの煮汁で豚肉を煮込んだ料理で、豚肉が口の中でほろりとくずれるほどやわらかい。ニンニクと唐辛子などのスパイスで味付けをしているが、ニンニクがきいたパンチのある味なので、マイルドなママリーガがよく合う。ママリーガに肉とトロトロの玉ネギをのせて、マリアージュが生み出すうま味をゆっくりとかみしめる。

時間をかけて

「トカナは休日に家族と一緒に食べる料理なんです。どこの家庭でも同じですが、私にとって思い出深いのは、年末の休みに田舎の祖父母の家にいくと、おじいさんが家畜の豚をほふって大きな鍋でトカナをつくってくれたこと。それをママリーガと一緒に家族みんなで食べるのが美味しくて。いつも楽しみにしていたんです」

 トカナは何時間もかけて煮込むという。孫たちを喜ばせようと準備しているおじいさんの後ろ姿がまぶたに浮かぶ。

「トカナはお家ごとに味が違って私も家の味を受け継いでいるけれど、日本に来てから唐辛子を少し入れるようになりました。モルドバは塩とコショウがメインのシンプルな味だけど、日本人は辛い料理とか好きだからね」とディアナさん。そこに、「トカナに限らず、モルドバ料理はすごく時間がかかるんですよ」と倉田さんが話を継ぐ。

「結婚したばかりの頃、朝起きると彼女がキッチンに立っている。朝食の準備をしてくれているのかと思って聞くと、なんと夕食の準備をしていたんです」。びっくりしてディアナさんを見ると笑顔でうなずく。特別な日ならいざ知らず、日常的なことらしい。

ママリーガ(右)とトカナ。トカナは、東はニンニクが多く、西は入れないなど地域による違いもある。また、ディアナさんは鶏肉でつくることもあるという
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