食欲をそそる香ばしいにおいが漂う。鼻を近づけてみるが、心配していた獣臭さも感じられない。口にいれると、その食感に驚いた。外はカリカリだが中はフワフワで、噛むととろりと溶けて舌に広がる。うま味は豊かなのに、クセもギトギト感もない。国宝の豚ということもあるだろうが、ラードのから揚げがこんなにも食べやすいとは思わなかった。
冷やして白っぽい固形物になった精製ラードはパンにたっぷりと塗る。さらにオニオンスライスとパプリカパウダーをトッピングして塩を少々。これがスタンダードなラードパンのスタイルらしい。テペルトゥが想像と違っていたとはいえ、たっぷりと塗られたラードには一瞬、躊躇したが思い切って大口でぱくり。二度目の驚きが訪れた。
新鮮さが大事
口当たりがバターよりもさっぱりしている。それでいてほんのりと甘く、動物性脂肪ならではのコクがしっかりとあって奥深い味。設永さんが言っていたことが理解できた。もちろん、このラードはパンに塗るだけではなく料理にも使うそうで、「炒飯に使っても美味しいですよ」と設永さん。
「テペルトゥもラードも新鮮さが大事だから、と畜したばかりの豚でないとつくれないんです。都会の人たちは店で買ったものを食べるけど、田舎ではいまも自分たちでつくります。手づくりのほうがずっと美味しいですからね。でも、毎日豚を解体するわけにはいかないから、ポピュラーだけど、特別な食べ物でもあるんですよ」
アティラさんが言う。ハンガリーでは、豚は肉や脂身だけでなく、内臓や血、皮、爪、鼻と、骨以外のすべてを食す。豚を解体するときは知人や近所の人たちに手伝ってもらって、お礼に解体した豚をふるまう。そして別の家でと畜するとなったら、今度は手伝いにいく。そうやってみんなで無駄なく分け合う姿には昔ながらの助け合いの精神があり、神様への感謝の念があるのだという。
「私は北東部のミシュコルツという大きな都市出身なので店で買っていたけど、郊外に住むおばあちゃんの家では手づくり。遊びに行ってラードパンや豚の燻製ソーセージを食べるのが楽しみだったなあ」
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