異文化の交わりを楽しむ在校生
2017年8月には、世界各地のナショナルコミッティーを経由して、33人の11年生が転入した。ブラジルやコロンビア、エクアドル、ギリシャ、イスラエル、リビア、ニジェール、ジンバブエなど、これまで在校生がいなかった地域からもやって来た。

ナショナルコミッティーからUWC ISAKに転入するのは11年生のタイミングだ。UWC ISAKが提示した生徒の受け入れ条件を基に、世界各地のナショナルコミッティーが生徒を募集して選抜する。選ばれた生徒は、自分が進学を希望するUWC校を第3希望まで挙げることができる。UWC ISAKの条件と生徒の希望をすり合わせて、入学が決まる仕組みだ。
新たな地域の生徒を迎え入れた在校生はどのように感じているのだろうか。
みんな不安を抱えつつも、異文化が混じり合う瞬間を前向きに捉えており、貴重な経験と感じているようだ。
2014年8月、15の国・地域から49人の第1期生で始まったUWC ISAK。現在は、58の国・地域から12年生が57人、11年生が76人、10年生が39人の計172人集まっている。来年からは、世界各地のナショナルコミッティーからの受け入れを40人に増やす。今後、12年生80人、11年生80人、10年生40人の計200人という規模で学校運営していくことになる。
大きな課題は教育格差の解消
日本で、子供の教育格差が問題視されるようになって久しい。これは、世界にも通ずる課題といえる。ウォーターマンは、「富裕層の子供は満ち足りた教育を受けられる一方、貧困層の子供は教員さえも足りないような学校に通わざるをえない現実がある。このままでは、今の社会が直面している経済格差を、次世代まで広げてしまう」と指摘する。
そのためには、奨学金の充実が欠かせない。UWC ISAKの式典でも、出席者がスタンディング・オベーションした、喜ばしい発表があった。UWCデイビス奨学金ファウンダーのシェルビー・デイビスが、1億円の寄付を発表したのだ。ただし、1つ条件がある。それは、UWC ISAK自身でも1億円を集めること。「UWC加盟に当たっては、UWCの理念に沿った教育を実施しているのかと同時に、そのカギとなる奨学金を出し続けられるのかを問われ続けました」と小林は振り返る。
“UWC is a Movement(UWC・イズ・ア・ムーブメント)”。ウォーターマンはインタビュー中に、何度もこう口にした。ここには、UWCが各地のUWC校をネットワーク化した教育組織ではなく、「世界の平和と持続可能な発展を実現するために教育の現場を通じて若者たちに働きかけていく活動組織でありたい」という強い意志がある。
その一員である小林にも、大きな使命が課せられることになる。「これまでも、日本においてはワン&オンリーの学校だったという自負はあります。今回のUWC加盟で、さらに世界に向けて新しい教育を発信すべき立場になりました」。
「多くの国は、まだ学業成績に比重を置きすぎています。ここ10年は『スキルの習得』が加わりましたが、スキルはハンマーと同じで、家を建てる道具にもなるが、人を傷つけることもできます。今の教育に欠けているのは『価値観』なのです」(ウォーターマン)
日本国内の教育に対して、UWC ISAKは何ができるのか。「サマースクールなどを通じて入学しない子供にUWC ISAKの教育を体験してもらったり、国際バカロレアのプログラムを広げていったりすることもムーブメントの1つ。ただ、私はUWC ISAKだけが正解とは思いません。それぞれの学校がそれぞれの理想とする教育の形を考えて実現していき、生徒は自分の価値観に合った学校を選んでいく。そんな環境が生まれるきっかけが、UWC ISAKであればうれしい」と小林は話す。
(文中敬称略)
日本初の試みとなる、全寮制インターナショナルスクールの開校。約4年にわたって、その軌跡を追ってきた本コラム「軽井沢にアジアのための全寮制高校を作ります!」が書籍になりました。
「少数の強いリーダーが全体を引っ張っていくような米国型のリーダーシップのモデル以外にも、日本らしさやアジアらしさを生かした多様なリーダーシップのモデルがもっと意識されてもいいと思うのです」(小林りん)。そのために、ダイバーシティーの環境に身を置いて、リーダーシップを養う教育の場を用意したい。
そんな思いから始まったプロジェクト。しかし、そもそもどうやって学校を作ればいいのか。ゼロからの取り組みが結実するまでの奮闘を描いています。
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