日本は、欠けていたピースの1つ

 UWCは、第二次世界大戦への反省から国際的な相互理解を深めて世界平和に貢献する教育の実現を目指して1962年に設立されたNPO(非営利組織)だ。「教育を通じて人々や国や文化を結び、平和と持続可能な未来に貢献する」ために、多様性を重視。国籍や文化、人種、宗教、経済力などを一切差別することなく、世界中から生徒を選抜する。返済不要の奨学金を高い比率で用意し、恵まれない地域で生活する才能あふれた子供に教育の機会を提供している。また、国際的に通用する大学受験資格「国際バカロレア」の設立にも関わっている。

 UWC ISAKのUWC加盟を、UWCはどのように考えているのだろうか。UWC国際本部の本部長であるイェンス・ウォーターマンは、「日本は国際社会において経済面で重要な役割を果たしてきた国であり、もし“教育国際連合”があれば間違いなく常任理事国となる存在だろう。その日本にUWC校がなかったことで、ピースが1つ欠けていたと思う」と話す。UWC国際本部は、UWCに加盟する17校、159の国・地域で生徒の募集や選考を実施する組織「ナショナルコミッティー」を取りまとめるUWCの中枢機関だ。

 日本は、UWCと無縁だったわけではない。実は、日本経済団体連合会(経団連)の支援を受けて、1972年にナショナルコミッティー「UWC日本協会」が設立されており、日本人生徒を世界各地のUWC校に送り込んできた。初代会長は当時の経団連会長だった植村甲午郎、2代目はソニー創業者の1人である盛田昭夫で、現会長は朝日生命保険最高顧問の藤田讓が務めている。

 しかし、日本に学校ができるまでには至らなかった。その理由は、UWCから学校設立を働きかけることはせず、各地での自発的な動きに任せているためだ。今回、UWCピアソン・カレッジで学んだ小林が日本でUWC校を立ち上げるのは、「UWCの活動を世界に広めるうえで、最も理想的なあり方だ」(ウォーターマン)という。

「UWCの卒業生であれば、教育がもたらすインパクトを分かっているはず」と、UWC国際本部長のウォーターマンは言う

 ウォーターマン自身、UWCピアソン・カレッジの卒業生である。その後、母国ドイツのヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学で法律を学び、アメリカのハーバード大学ケネディスクールを出た。大手出版社、経営コンサルティング会社を経て、「そろそろ教育に全精力を注ぐ時期」と判断して、UWCのメンバーになった。

外国人生徒が面食らった清掃活動

 「UWC ISAKは、ほかのUWC校と比べると、アントレプレナーの集団という印象を受けます。だからこそ、社会と教育の断絶を埋めていくといった役割を期待しています。UWC理事会に参加する小林りん代表理事やロデリック・ジェミソン校長から、UWC ISAKの取り組みや日本の教育システムなどの話を聞くと、大いに刺激を受け、UWC自身の視点や文化が広がっていく」と、UWC ISAKをウォーターマンは高く評価する。

 日本らしい取り組みを示す、分かりやすい一例が「STOP&CLEAN(ストップ・アンド・クリーン)」だろう。これは、昼食後の20分間、すべての作業を止めて校舎を掃除するという試み。生徒だけでなく、教員やスタッフも一緒になって清掃活動に従事する。日本の学校経験があれば、何の不思議もないことだろう。ところが、掃除に面食らう外国人の学生は少なくない。海外では清掃員任せで、自分で校舎をきれいにするという習慣がないからだ。

 ウクライナのナショナルコミッティーを通じてUWC ISAKに入学した11年生(高校2年生)のイリーナは、こう本音を明かす。「最初の1週間は、なぜ私が学校の掃除をしなければならないのか、まったく理解できなかった。でも今は、自分が学ぶ校舎に対する感謝の気持ちであると納得しました。自分の学校だから自分できれいにするという意識が芽生えました」。母国に帰国した際も、整理整頓が身についた娘の姿に、家族が驚いたそうだ。

 「UWCは、設立から50年以上が経ち、ここ5年で6校が新たに加わるなど急激に拡大していることもあり、自分たちの教育方針が世界に貢献できる若者を輩出し続けるのにふさわしいのかを改めて考える節目に来ています。そこで、チェンジメーカー=社会に変革が起こせるリーダーを教育で生み出すという私たちの取り組みや考え方が注目されています」。小林は、UWCからの期待をヒシヒシと感じているという。

 そして、こう続ける。「海外から来る観光客の方から、『昔は“Seeing”で、その次は“Doing”、今は“Being”だ』と聞いた。座禅で自分と向き合うといった、文化に関心が高まっています。教育においても、必ずしも西洋の教育を輸入するのではなく、自分たちに見えている社会の景色に敏感であり、日本やアジアならではの価値観も取り入れながら、カリキュラムを考えていきたい」。