さらに、創造力・行動力・奉仕の精神を養う「CAS(Creativity、Action、Service)」の授業では、各自で世の中を深く観察し、“課題”を設定する。それぞれの生徒が提起した課題をクラス全体にプレゼンテーションし、投票でいくつかに絞られた課題は実行にも移される。そのため年に2回、「プロジェクトウィーク」として授業を1週間休講し、生徒がプロジェクトに専念する期間が設定されている。

 そのうちの1つが、2015年4月25日に発生したネパール大震災に対して、何か自分たちにも支援ができないかと立ち上がった生徒による「プロジェクト・ネパール」と題された活動だ。実際に現地で被災した家族を持つネパール出身の生徒を中心に始まった。当初は、「10万円でも20万円でもいい。母国に送るための募金活動ができないだろうか」と、募金活動やファンドレイジングに詳しい小林のもとに生徒が相談に来た。

 そんな生徒に小林は喝を入れたというから驚きだ。「母国の危機にその目標設定は低すぎない? ちゃんと学校で学んでいるデザインイノベーションを活かして考えてみて。どんなニーズがあるのか、どこに何が必要なのか、きちんと見極めて、実際にいくら必要なのかを算出して集める方法を考えなきゃダメでしょう」。

 どうやらこの叱咤激励が、後にこの活動が、山岳地で壊滅的な被害を受けた村の医療センターや学校の復旧を手がけ、ネパール元大統領から感謝状を贈られるまでに成長する大きなきっかけとなったようだ。しかも、小林本人は喝を入れたことをまったく覚えておらず、生徒たちが半年以上経って「あのときは叱咤激励してくれてありがとう」と言いに来て驚いた、という後日談付きである。

生徒のためにカリキュラムも見直す

 もっとも、小林が実際に生徒に関わる時間は、全体の1割に満たない。校長のジェミソンとは毎週、目先の課題解決について方向性を確認したり、生徒の満足度調査などを基にISAKのあり方を見据えたり、長時間の議論を重ねている。人事や予算については校長の責任事項だが、もちろん、小林も相談に乗る。

 今の議題の1つに、生徒たちの“忙しさ”がある。世界基準の国際バカロレアディプロマプログラムを採用しているISAKだが、日本の高校の学習指導要領の条件もクリアしなければならない。生徒が卒業して希望する大学に進学するためには、それぞれで設定されている単位をすべて取得する。また、世界各地から生徒が集まってきていることを考慮して、夏休みは2カ月間、冬と春にも長期休暇があるため、日本の一般的な高校よりも1カ月ほど授業期間が短い。また、生徒たちは授業に加えて、それぞれプロジェクトやクラブ活動など、様々な課外活動に取り組んでおり、必然的に多忙を極めることとなる。

 しかし、「新たなフロンティアを創出し変革を起こせるチェンジメーカーを育てる」という学校のミッションを真に追究するなら、それぞれの生徒たちが自分の興味を深堀りするための自由な時間がもっと必要なのではないか、というのである。

 「学校ではさまざまな角度のカリキュラムを用意していますが、そこで教わることだけがすべてではありません。本当のイノベーションは、型破りな発想から生まれるもの。生徒たちが私たちの教えていないことに興味を持ち、もっと深堀りするゆとりを持てるよう、今の時間割以上に自由時間を増やしたいと考えています」(小林)

 では、どうするか。一つの方法としては、1単位でも落とせば即留年となってしまうギリギリのラインまで授業数を減らすことだ。どこまでのリスクヘッジをすべきか、教師とスタッフで議論を交わしている。

 同時に、文部科学省とも交渉を重ねている。国際バカロレアでも日本の学習指導要領でも単位として認められる授業が増えれば、生徒の負担は減る。最近では国際バカロレアを採用する学校が増えてきていることもあり、「学校設定科目」という学校が自由に設計できる科目数が倍増し、これまで日本では単位として扱われなかった「CAS」の授業なども単位認定されるようになったという。

次ページ 小林自身が駆け回るファンドレイジング