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血縁関係を軸に、生活の基盤を共有する家族制度を、日本人は長い歴史を通じて保持してきた。だが、時代の趨勢とともに、その仕組みに綻びが出始めている。なぜ人間の家族は壊れてしまったのか。これまであらゆる動物とのかかわりを通じて人間社会を見つめてきた、旭山動物園園長の坂東元氏に聞いた。

坂東元(ばんどう・げん)
旭山動物園園長。1961年北海道生まれ。酪農学園大学卒。獣医となり86年より旭山動物園に勤務。飼育展示係として行動展示を担当。動物が持つ生態や能力を引き出すよう工夫した行動展示は旭山動物園を一躍有名にした。2009年より現職。

毎日、動物園で動物の様々な姿を見続けてきた坂東園長におうかがいします。そもそも動物と人間って、何が一番違うのでしょうか。

坂東元 氏(以下坂東):やっぱり、人間ってすごく特殊な生き物ですよね。自分を変えない。つまり、周りの環境を変える、作り変えるということをずっと続けて生きてきた。例えば南極のような人間が住めない場所でも資材や食料を持ち込み、太陽熱暖房なんか作っちゃったりして住んでしまう。姿かたちは変えずに、いろんな技術やモノを使って環境を自分たちに合わせようとする。その発想というか、思考回路が動物と根本的に違いますよね。だから、自分たちが今与えられている環境の一部として「生きる」感覚がないんです。もちろん、太古の昔、今のような技術がない頃は、環境とともに生きるということがあったのかもしれないけど。

 環境を変え続けてきた結果、「生きる」という感覚がどんどん生物本来のものからかい離してしまっていると思います。動物にとって「生きる」とは、食べることそのものです。自分が生きるためには誰かを食べなきゃならない。その食べる生き物も誰かを食べなきゃならない。

食物連鎖ですね。

坂東:はい。みんなが連鎖して、みんながつながって1つの環境を作っているんです。誰かが生きるためには、誰かが犠牲にならなきゃいけない。そんな環境の中で動物は生きています。人間はその覚悟というか、たくましさがなくなってきている。死を見ることがそもそもないから。みんな生きてしまったら、環境が成り立たないという感覚がない。

 面白い話があります。たとえば北海道にエゾリスというリスがいるんですけど、野生の平均寿命は2~3年です。でも動物園で飼育すると、長生きしますよ。うちの動物園で最も生きたシマリスは16年でした。安全で、食べ物が保証されている環境では、長生きするんですね。きっとリスも人間と同じで、走るのが遅いとか、エサを探すのが下手とか、ちょっとした能力の衰えや欠落による個体差があると思います。そういう中で毎日油断せず一生懸命生きているけど、2~3年しか生きられない。天敵のタカやフクロウなどに食べられてしまうからです。

 シマリスにとって、タカやフクロウは自分たちの命を奪う、不都合な存在です。しかし、だからといって同じ環境から追い出すようなことはしないですよね。食べるもの、食べられるものが同じ環境にいる。それだけでなく、自分たちが生きることに関係のない生き方をしている別の生き物たちとも、一緒に同じ環境を共有している。それが動物の世界です。

「排除」という感覚がないのですね。

坂東:はい。身を守るというのが、その不都合な存在を排除して身を守る、という発想ではないのです。今の人間とは違いますよね。だから人間はやっぱり特殊なんです。