新しいつながりの社会

 日経ビジネスの17年末の特集「『家族』を考える」では、戦後の日本の社会の中核であった核家族という家族の形が変わっていることを示し、これまで家族が担っていた、扶養や子育て、介護をはじめとするつながりを、地域や住民など新しいつながりの中で再構築する必要があると、述べた。

 今回の花王の調査では、家庭内でも「個」の意識や行動が強まっていることを示している。

 「個」への流れは明らかだが、それが孤立化や社会不安につながらないよう、個人も、企業も、地域も、従来の「家族」を超えた新しいつながりを築く社会を目指す時期に来ている。

「家族」に取り組む社会起業の支援も

 「女子学生が働くことを理解できるように、共働きの子育てを体験する仕組みを作りたい」「中高生の創造力を磨く塾を開きたい」―、家族を取り巻く社会課題を解決するためにNPOやベンチャーの形で新しく組織や事業を立ち上げようとする若者たちがいる。花王は、そんな若者たちのスタートアップを応援するため、2010年から「花王社会起業塾」を開催している。

 具体的には、NPO法人のETICと連携し、社会起業に取り組む若者から事業アイデアを募集。応募者の中から3人を選び出し、半年間にわたり、事業計画や戦略の立案など、組織運営について学ぶ支援をする。さらに花王の社員との意見交換会などの機会も設ける。

 花王執行役員の石渡明美氏は「日用品を扱う花王にとって『家族』は常に大きなテーマだが、家族や社会のあり方が変わる中で、新しいサポートが求められている。そこに花王が持つ知見が役立てばいいと考えている。社会起業家との交流は花王の社員の成長にもつながる」と話す。

 花王の社会起業塾での学びを生かしながら、事業を広げる若手起業家も多い。埼玉県所沢市を拠点に東京や神奈川などで産前産後の家族をサポートする事業を展開、父親学級なども手掛けるアイナロハ産後さぽーとままのわ。代表取締役の渡辺大地氏も、12年度に花王の社会起業塾で学んだ。

アイナロハは産後の母親をサポートするスタッフを派遣。赤ちゃんの世話や食事づくりなどを手助けする。代表の渡辺氏が講師を務める父親学級は、出産後の妻に寄り添うことの大切さを説く

 渡辺氏は起業前、ごく普通の夫婦共働きの会社員だった。しかし妻が2人目の子どもを妊娠した際、3カ月で破水して、長期入院となった。それぞれの両親は、高齢だったり、遠方に住んでいたりといった理由で頼ることができなかった。渡辺氏は会社に通いながら、当時2歳だった上の子供の面倒を一人で見たという。地域のファミリーサポートの制度なども利用しようとしたが、介護に人手をとられており、結局頼むことはできなかった。

 自らの経験から、渡辺氏は「産前産後の家庭をサポートするニーズは高い」と考え、子育て世帯に家事・育児をサポートするスタッフを派遣する事業を立ち上げた。事業経営について学ぼうと、花王の社会起業塾に参加で「花王の社員の方のアドバイスで顧客の想定、開拓の方法など、事業を進めるうえで改めて深く考えた。貴重な経験になった」と言う。

 実際に事業を始めてみると、当初の想定とは違う展開になることも多かった。「例えば子育てを終えた世代の女性がスタッフになってくれるかと考えていたが、実際は小学生の子どもがいるなど、子育て真っ最中の女性が『自分も苦労したから』と登録してくれている」(渡辺氏)

 そんな渡辺氏は、子育て世代の家族が抱える問題を実感する毎日だ。

 「40代で子供を産む、いわゆる高齢出産の女性が増えている。子育てと介護を同時に背負い込み、かなり苦しい状況になっている人も多い」(渡辺氏)

 家族問題が起きた時、家族だけでは支え合うのは難しい。新しい形の支え合いが必要な時代は、もうやって来ている。