郷原:こうした状況で、検査の数字が契約と多少ずれてしまったらどうするか。かつては腕利きの職人が「大丈夫だ、私が保証する」と言って、納入していたのではないでしょうか。すると、これが前例となってしまいます。

 契約と数字が乖離した製品を納入するのは、一種の不正です。本当ならやめないといけない。だけど、昔からそういう慣習が続いているし、最近もやってしまった。改めるには、その理由を説明する必要も出てきます。

一度でも隠蔽すると悪循環に

先輩や上司の顔を潰してしまうので、今さら波風は立てられない。

郷原:企業組織の中で、先輩のしてきたことを否定するのは相当な勇気が要りますからね。違和感を感じていたとしても、今まで通りに続けるしかなくなります。課長や工場長といった人たちが、個人の意志で問題を解消するのは極めて難しい。

 続けるだけならまだいいのです。問題は「監査」が入ったときにどうするか。先輩に責任を押し付けることはできないし、内部通報窓口に相談するわけにもいかない。そうしたときに「隠蔽」が始まるのです。

 一度隠蔽すると、隠蔽した事実をさらに覆い隠す必要に迫られて悪循環に陥っていく。製品の安全性などには問題が無くても、過去の隠蔽工作を隠すためにデータを偽装するといった不正がどんどん膨れあがっていきます。カビ型不正の恐ろしさは、こういうところにあるのです。

放置しておくと、カビの増殖は止められません。

郷原:そういう行為をやめるには、どこかで問題点を全部さらけ出す必要があります。経団連は2017年12月、会員企業に対して品質管理に関する不正などの自主調査を求めました。世耕弘成経済産業相も「顧客対応などとは別に速やかに社会に公表する」ことを要請しました。

 ところが今回のようなケースでは、拙速な情報公開が世間の混乱を招く可能性があります。素材や部品といったBtoB製品では、「顧客」が大きく関わってくるからです。

 東レ子会社が製造していたタイヤ部材では、彼らが数値の改ざんを把握したとしても、すぐに世間に公表できません。安全性について最終責任を負っているのは顧客であるタイヤメーカー。タイヤメーカーと調整する前に素材メーカーが発表してしまうと、世間は混乱するだけです。