経営トップは現場の「カビ」を把握できない

構造的な問題とは。

郷原:今回判明した問題の多くは長年にわたって企業組織の末端に潜んでいた、偽装や改ざん、隠蔽、捏造といった「形式上」の不正です。経営トップが実態を把握していれば、即座にやめさせていたはずです。

 ところが経営層が現場の状況を把握できないために、問題を明るみに出せなかった。手を染めている現場の人々は、自分たちの手で過去からのやり方を是正できません。そしていつしか、不正が企業に染みついてしまう。私はこれを「カビ型不正」と呼んでいます。

不正には様々あると思いますが、「カビ型」はどういう特徴があるのでしょうか。

郷原:違いを鮮明にするために、東芝の粉飾決算と比較してみましょう。東芝のケースでは不正の震源地は経営トップでした。権力闘争を続けていた上層部が、自分に都合の悪い数字を隠そうとして利益を水増ししたわけです。こうした問題を解決するには、経営トップの交代が効果的です。原因をつまんで捨てれば退治できるという意味で、私は粉飾決算を「ムシ型不正」と呼んでいます。

 一方、カビ型不正の典型例が談合です。特定の個人が原因ではなく、組織風土や歴史的経緯など構造的な背景を抱えていることが多い。担当者がAさんからBさんに変わっても、同じように不正が引き継がれていきます。個人の意志とは関係ないところで、不正が続く仕組みになっているからです。

 ムシとは違い、カビの原因は複雑です。汚れや湿気といった根本原因を除去しない限り、根絶することはできません。目に見えているカビを取り除いても、また新たなカビが生えてきます。一連の品質データ偽装も、そういう性格を持っていると思います。

品質データ偽装がカビだとすると、どういう環境が不正の「温床」になっているのでしょうか。

郷原:30年前や40年前の日本の製造業では、今ほど厳密に数値データが求められていなかったはずです。実績のある工場で一定の原料を用い、きちんとした工程を経た製品なら基本的には信頼できるという認識が、メーカーと顧客の両方にありました。

 ところが技術の進歩にともない、客観性が求められるようになってきました。ハイテク製品だけでなく、昔と同じような使われ方をする素材や部品についても数字が重視される。こうした変化は急激に起きるのではなく、徐々に進行していったと思われます。