変わる前提、本当に過剰品質なのか?

 次々に発覚する品質関連の不正は、現時点では命にかかわるような品質トラブルを引き起こしてはいないとされる。だが、蔓延する品質管理のゆるみは今後、重大な品質問題につながりかねない。

 安全性に余裕を持たせて設計をしているという前提が変わってきているからだ。コスト削減の圧力が高まる一方、デジタル化により強度のシミュレーションなどの設計技術も進化。余裕を持たせない設計が可能になってきた。

 「安全率が限界設計みたいに小さくなっている可能性がある。安くするために、安全基準をぎりぎりまで近づける。アルミ材も、航空機などがぎりぎりで設計されていれば問題が起きかねない」。安全学の権威である明治大学の向殿政男名誉教授はこう指摘する。

 日本企業が長年大事にしてきた品質。1950年代以降、欧米に追い付け追い越せと、日本メーカーは先を争って、QCサークル(小集団改善活動)やTQM(総合的品質管理)などの活動に熱心に取り組んできた。急速に高まった品質は世界的に評価され、日本製品はめったに壊れないという「品質神話」が生まれた。

 米国で日本の自動車メーカーが台頭したのは、品質が優れており、中古車になった際の価値が高かった影響が大きい。日本の建設機械や家電も高い品質が高く評価され、世界進出が加速していった。

 だが、今はどうか。「20年前は社内でTQMやQCサークルに熱心に取り組んでいたが、いつの間に廃れてやめてしまった。今では工場で改善活動を指導できる従業員はほとんどいない」。ある中堅産業機器メーカーで品質管理を担当する50代の技術者はこう嘆く。

 今でも品質改善活動に一生懸命取り組み続ける日本メーカーは少なくないが、「1990年代以降、日本の製造業が新興国に追い上げられ、コスト削減の圧力が高まる中で、QCサークルをやめる会社が増えてきた」。TQMやQCサークル活動を推進する日本科学技術連盟(日科技連)の佐々木眞一理事長はこう語る。多くの日本メーカーで改善活動は下火になっている。

 なぜ日本メーカーの品質に対する意識が低下しているのか。

 「結局は経営トップの意識の問題だ。かつては品質管理のシンポジウムを開催すると社長クラスが必ず参加していた。今では役員が出るのは意識が高い会社で、部課長クラスしか参加しないケースも多い」。日科技連の会長で、コマツ相談役の坂根正弘氏はこう指摘する。

 日産の完成検査の不正に関する調査報告書でも、同社の経営陣がコスト削減や販売台数などの数値目標を重視する一方で、工場の品質管理に十分な関心を払っていない実態が問題視された。

 「ゴーン流のコミットメント経営での目標達成意識が不正を誘発した」「過度のコスト削減圧力が(不正の)一因である」といった厳しい批判まで調査に応じた日産社員から飛び出した。

 製造現場で慢性化する人手不足も、日本メーカーの品質管理を困難にしている。

 日産は、コスト削減圧力がある中、正規社員だけではなく、非正規の従業員にも完成検査を任せる動きを加速してきた。だが、その教育が間に合わず、資格がないままに、完成検査を担当させていた。

 熟練した技能を持つ正社員は50代以上になって高齢化。働き盛りの30~40代の正社員は採用を抑制してきたために少なく、20代は教育が不十分な非正規社員が多い。そんないびつな構造のままで、増産を急がせたことが、完成検査の不正につながったようだ。