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 地元ユース世代のコーチだったが、独学で戦術分析や最先端のサッカー理論を習得、現場で実践した成果をYouTubeやフィスブック、サッカー専門メディアに積極的に投稿し、各クラブに送った。その分析にFCボローニャのコーチになったシニシャ・ミハイロビッチ氏が着目、ボローニャやサンプドリア、ミラン、トリノと副官としてミハイロビッチ監督に仕えることになった。

 「知識の共有とオープンソースのカルチャーが私の成長のベースにある」。デ・レオ氏がそう語るように、ネット上に無数に存在する論文や記事、アイデアはデ・レオ氏のスキルを高める培地になった。さらに、自身のアイデアをネットの言論空間に公開することでそのアイデアはさらに磨かれた。

 最初は自身の記事に寄せられる批判に困惑し、苛立ちを覚えたこともある。中身を読まずに批判してくる人間に対してはなおさらだ。だが、他者の批判は自己批判のチャンスだと考えるようになったことで、自分のアイデアがより優れたものになったという。

 もちろん、デ・レオ氏もサッカーコミュニティに自身の知識や経験、技術を還元している。

 数シーズン前、デ・レオ氏は映像解析チームと共同で自分たちが使っていた映像を公開した。フィールドプレイヤー20人の動きが分かる「戦術カメラ」の映像だ。ノウハウの公開は自チームにマイナスと考えるチームがほとんどの中で、あえて公開したのは、それ自体が差別化要因ではないという事実もさることながら、自分を育ててくれたコミュニティに対する返礼だ。

 「私は他の人の知識に多大なる影響を受けた。次の人々に刺激を与えるのは私の責務だ」とデ・レオ氏は言う。今では試合の分析のために多くのファンが活用している。

データで変革の動きが乏しい日本

 マリッチ氏やデ・レオ氏を見ても分かるように、欧州では若き分析家による分析コンテンツやテクノロジーを駆使したデータ分析が、サッカーに変革を起こそうとしている指導者と結びつき、相互に影響を与えている。だが、日本のサッカー界にはそうした動きはあまり見られない。『砕かれたハリルホジッチ・プラン』を上梓したサッカー分析家兼シナリオライターの五百蔵容氏はこう語る。

 「若い分析者、指導者、テクノロジーで現場に貢献しようとする若い人たちの力を取り入れていこう、という動きが日本のサッカー界にどれだけあるかと言えば、J2の一部クラブやJ3、JFLのような小さな現場では見られるようになっているが、J1のクラブや日本代表などでは目立った動きはない」

 知識やノウハウのシェアが可能な業界とそうでない業界は間違いなくあるだろう。ただ、メディア業界に関して言えば、情報やネタ元を囲い込んだところで、すべてを記事にできるわけではない。ならば、それをできる人間に託した方が社会のためになる。

 それでは、新しい戦術やアイデアが瞬時に丸裸になる時代に、それぞれのチームの差別化要因は何になるのだろうか。恐らく、アイデアをチームに落とし込む能力、つまり自軍の駒に合うように最適化する能力や日々のトレーニングを通して選手に動きを理解させる能力、もっと言えば、人材育成やコーチング、チームビルディングといった細部のマネジメントになるのではないか。

 いくら前衛的な戦術の全貌が分かったとしても、所属する選手はチームごとに違う。自分のチームに適用できなければ意味がない。それは企業も変わらない。