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 それゆえに、レッドハットの社風もオープンソース・コミュニティのカルチャーそのものだ。

 オープンソース・コミュニティで何かを成し遂げるためには自身のアイデアが優れているということを他のメンバーに納得させる必要がある。それゆえに、アイデアを表明し、なぜ優れているのか、アイデアに対する批判がなぜ間違っているのか、ということを説得しなければならない。裏を返せば、アイデアを出さない人間は存在しないも同然だ。「意見がないのはダメな意見よりも最悪」と上級副社長兼製品・テクノロジー部門社長のポール・コーミア氏は語る。

 また、コミュニティでは顔の見えない人間同士がやりとりするため、情報はすべて開示し、議論を尽くさなければ参加者は納得しない。中核メンバーが独断で進めれば、プロジェクト自体が空中分解するだろう。

 それはレッドハットも同じだ。経営陣の決定事項に疑問があれば、全社共通のメーリングリストで普通に異議を申し立てる。指示に意味がないと現場に判断されればCEOの支持も無視される。デルタ航空の副社長からレッドハットに転じたホワイトハーストCEOも洗礼を受けた。

 CEOに就任してすぐ、部下にあるリサーチを命じた。数日後、進捗を聞くと、その部下は「あまりいいアイデアだと思わなかったのでやめておきました」とひと言。また、ある企業の買収を決めた時も、なぜその企業を買収するのか、なぜもっと早く説明しないのかと突き上げを受けた。

 そのカルチャーは日本法人も同じだ。2015年に入社した本多正幸・人事部長の最初の仕事はほかの地域と比べて低いとされた社員のエンゲージメントスコアの改善だった。アジア太平洋地域の上司に言われた通りに改善プロジェクトを実施しようと、全社向けのメーリングリストにその旨を書いたところ、社内から怒りのメールが次々に来た。

 「誰がそんなことを言っているのか」

 「そんなくだらない話を誰が聞くのか」

 「そもそもわれわれがレッドハットを愛していないなんてなぜ分かるのか」

 その後、エンジニアが本多氏を相手にミーティングを開催した。

 「おれたちがどれだけレッドハットのオープンソース・ソフトウェアを愛しているのか見せてやる、と。実際の会議に80人、ビデオ会議に100人以上が集まってひたすらプレゼンが続く。私だけがお白州に立っているような気分だった(笑)。カルチャーショックだったが、同時に面白いと思った」。本多氏はそう振り返る。

 もちろん、経営の重要事項を決断するのは経営陣だ。社員が反対しようが決める時は決める。だが、経営陣は可能な限り社員と情報を共有、意思決定プロセスの透明性を図ろうと常に努力している。

 「なぜその意思決定に辿り着いたのかをみんな知りたがる。なぜそういう決断をしたのか、その意思決定の要素は何だったのか。その理由を言えれば、意見が違ったとしても最後はみんな従う。それがオープンソースのカルチャーだ」。そうコーミア氏は語る。

採用時にはコミュニティへの貢献を重視

 このカルチャーが優秀な人材を引き寄せる。

 「ひよこ大佐」というハンドルネームを名乗るテクニカルサポートエンジニアの八木澤健人氏。2017年11年にツイッター上で転職希望をツイートしたところ、20社以上からオファーが来たことで知られる。その後、2018年3月にレッドハットへの転職を決めた。

 引く手あまただった彼がレッドハットを選んだ理由は、同社が扱う商品がオープンソース・ソフトウェアで中身を詳しく勉強できる点もさることながら、レッドハット自体の魅力もあった。

 「オープンソース・ソフトウェアでビジネスを展開し、そこで得られたものをコミュニティに還元していくのはやっているエンジニアにとってやりがいがある。コミュニティに積極的に関われるところが魅力だった」