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 「グーグルのエンジニアにクーバネテスの概要について聞いた時は人生最良の日だった。自分では考えたこともないようなアイデアに関わるのはスリル以外の何物でもない」

 コミュニティにおけるパリス氏の役割はコードを書くだけでなく、コミュニティと顧客の正しいバランスを見つけることだった。

Red Hat OpenShiftの共同テクニカルリーダーを務めるエリック・パリス氏(写真:David Kennedy)

 コミュニティは多くの場合、その技術の健全で長期的な発展を優先させる。一方で、ユーザーである顧客は今すぐに解決したい課題、短期的なビジネスニーズを重視する傾向にある。ユーザーの要望をすべてコミュニティに反映させることは不可能だが、コミュニティだけで開発を進めればユーザー基盤は広がらない。パリス氏は中核メンバーとして、クーバネテスの長期的な発展を追求しつつ、顧客のニーズを取り込むという難しい舵取りを担った。

 「こんなことを言っていいか分からないが、グーグルは自社のソフトウェアとクラウドサービスを第一に考えている。その中で、オンプレミスでシステムを運用する企業のニーズをクーバネテスに持ち込んだのはレッドハットと我々の顧客だ。ストレージに関してグーグルの関心はそれほど高くなかったが、レッドハットがストレージモデルを開発したことで、結果的に他のソフトウェア会社がコミュニティに参加するようになった」

 パリス氏はそう振り返る。コミュニティの一員としてコードに貢献する一方で、レッドハットは顧客基盤が広がるように、開発の方向性に一定の影響力を行使している様子が見て取れる。

 こういったやりとりは骨の折れる作業だが、クーバネテスのような複雑なシステムを単独で作れる企業は存在しない。自社のリソースでは作れないソフトウェアをみんなで作り、その中で影響力を発揮する。それがレッドハットの最も得意としているところだ。

エンジニアは会社ではなくコミュニティを最優先

 もちろん、オープンソース・コミュニティ特有の難しさはある。

 「コメントやコードの貢献以外で相手を認識できない。見知らぬ人と共感することを強いられる」。クーバネテスのトップ貢献者として知られるクレイトン・コールマン氏が語るように、顔も知らない人間同士がテキストベースでコミュニケーションを取るのは難しい。関与する人数が増えれば増えるほど合意形成にも時間がかかる。

 また、ソフトウェア・エンジニアの世界はコードがすべての実力主義。率直な評価が飛び交うため、心が折れる人間も少なくない。

 「コミュニティで最も重要なのは自分の評判。優れたアイデアを提案し、それが機能することを証明できれば大きな評価を受ける。逆にアイデアが凡庸であれば、コードに変更を加える力を失う」。そうパリス氏は打ち明ける。我田引水と見られれば評判が失墜するため、レッドハットはエンジニアに対して、会社ではなくコミュニティを最優先で考えることを認めている。