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 そして、エアビーはAIと雇用という命題に対して「Data University(データ大学)」というプログラムで対応しようとしている。Data Universityはデータサイエンティストではない“普通”の社員向けの社内講座だ。

 Data Universityは3段階のレベルに分かれている。

 初級編では、統計データや分析の基礎、エアビーが提供しているプラットフォームやデータツールの概要について教える。中級編はデータベースや可視化ツール、A/Bテスト(異なる仮説をユーザーに試させて善し悪しを比較する手法)など実験のテクニックについて。上級編は「R」や「Python(パイソン)」といった統計分析言語や機械学習の実践といった高度な内容だ。

 「このプログラムを作ったのは当社のデータサイエンティスト。今は50人以上がボランティアで教えている」。Data Universityを作ったひとり、プロダクト・リードのジェフ・フォング氏は語る。

Data Universityの“開校”に関わったジェフ・フォング氏(写真:Tex Allen)

 Data Universityの開校以来、社員は確実に変わっている。社内データ・プラットフォームやデータツールを毎週使う人は開校前は23%だったが、今では45%に倍増した。データをデータベースから呼び出すための指示の数も5倍に増えている。

 A/Bテストもサイトなどプロダクトに関わる60%の社員が使うようになった。過去12カ月の間に実施されたA/Bテストは4000件以上に上る。プロダクトに変更を加える際に、それだけ多くの社員がA/Bテストを活用しているということだ。

既存の大企業との差は広がるばかり

 加えて、Data Universityは社内異動の機会も生み出している。

 顧客サポート部門で働いていたある社員はデータに興味を持ち、Data UniversityでSQL(データベース言語)の基本を勉強した。その後、プロダクト関連の部書に移った社員は2年後にプロダクトマネジャーに昇進した。社内でスキルを身につけたことが新たなキャリアを切り開くきっかけになった。

 「Data Universityの内容の一部は広く公開していこうと思っている」とフォング氏は言う。そうなれば、エアビーの社員以外も同社のプログラムを学ぶことができる。

 Data Universityを設立した一義的な目的はすべての社員がデータを効率的に使って仕事をできるようにするため。ただ、データの扱い方や分析のイロハはコンピューターサイエンスと同様、必須のスキルになるという思いもある。社員のデータサイエンティスト化を進め、AIとデータを使いこなす側に回ってもらうというエアビーの取り組み。これはAIの進化と雇用の将来懸念に対する一つの回答だろう。

 既存の大企業がもたもたしているうちに、エアビーのような会社はデータを使って業務をどんどん効率化していく。そういう先進的な会社ではデータやAIについて深く学べるため、優秀な人材も流れる。その好循環が既存企業との差をさらに広げていく。彼らに追いつくには、企業自身が社員の成長を促すような魅力的な場になる以外にない。