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2012年にデータサイエンティストとしてエアビーに採用されたエレナ・グリーワル氏(写真:Tex Allen)

 エアビーがデータ主導的なカルチャーになった要因は、もうひとりの創業者、ネイト・ブレチャージクCSO(最高戦略責任者)がデータに精通していたことが大きい。だが、一朝一夕にデータサイエンスチームができあがったわけではない。文字通りゼロからの立ち上げだった。

 データサイエンティストとして2012年に採用されたグリーワル氏が最初に取り組んだのは必要なデータを追跡・収集する仕組みの構築だった。その後、データが集まるようになると、集まるデータを使えるデータに加工する作業が必要になり、データ・アーキテクトという職種を採用し始めた。

 すると、次第にデータを解釈する専門家が必要になり、データアナリティクス・スペシャリストを探し始めた。データが意味することを効果的に伝えるビジュアル化も必要になり、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールなどを扱っていた人材を雇うようになった。

 その後、実際の業務にデータを還元していく上で、仮説の実行とその影響を理解するためのモデルを構築する専門家が必要になり、ユーザーごとのパーソナライゼーションを実現するために機械学習の専門家が求められるようになった。このように、データ活用の深度に応じて異なるスペシャリストを採用し続けた結果、160人規模の組織に成長していった。

 「私が大学の時、データサイエンスという学位はありませんでした。ただ、通っていたスタンフォード大学教育学部は定量的研究を重視する風土で、研究のためにコンピュータサイエンスや統計を学ぶ必要があったんです。それで、データサイエンスに必要な知識やスキルを身につけることができました」。そうグリーワル氏は振り返る。

1年に3万5000人がエアビーのデータサイエンス職を希望

 2018年にエアビーのデータサイエンス職に申し込んだ人はおよそ3万5000人と、2015年から4倍増となった。エアビーの成長は、社内におけるデータサイエンティストの増加と比例している。

 AIによって仕事が奪われるという恐怖は社会に根強く残る。実際、マッキンゼー・アンド・カンパニーはロボットの導入や自動化によって、2030年までに最大8億人の雇用が奪われると予測している。その影響は甚大だが、一方でテクノロジーの“民主化”も進んでおり、一部の専門家に限られていた最新技術が誰でも使えるようになりつつある。

 例えば、米アマゾン・ドット・コムのクラウドサービス会社、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は2018年11月に開催したイベントで「AWS RoboMaker」という新サービスを発表した。RoboMakerはロボティクスの開発環境を簡単に構築するためのサービスだ。

 物体の認識や自発的な動作などをロボットに学習させるには機械学習の知識が必要で、開発環境の整備やシミュレーション、テスト、実際のロボットへのアップロードなどを独力でやるとかなりの手間と時間がかかる。だが、RoboMakerを使えば開発やテストを迅速に始めることが可能だ。

 「PCでテストして修正できるので開発時間は間違いなく短縮される」。米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所でロボット開発に関わるエリック・ジョンキンス氏はそう語る。ロボットやプログラミングに関する相応の知識は必要だが、RoboMakerを使うことでAI搭載のロボットを開発するハードルは確実に下がる。

 データサイエンスの領域でも同じことが起きている。シリコンバレーのスタートアップ、Exploratoryはコードを書くことなく様々なデータ分析が可能なツールを提供している。機械学習、VR/AR(仮想現実/拡張現実)、3Dプリンターなど、技術の民主化が進んでいる領域は多岐に渡る。

 ハラリ教授が言うように、新たなテクノロジーに人類がどれだけキャッチアップできるのか、という問題は残るが、AI時代を生き抜くために、民主化される技術を学ぶことは不可避だ。