成長マインドセットを取り戻す

 ナデラがカルチャーに関して、組織に浸透させようとしたのが「成長マインドセット」であり、当時のマイクロソフトに最も欠けているものだった。

 「成長マインドセット」は、心理学者のキャロル・ドゥエック(『マインドセット:「やればできる!」の研究』の著者)が提唱する思考様式で、同じ素質を持っている人でもマインドセットによって、結果が大きく異なることを示した。生まれ持った能力は出発点にすぎず、情熱、努力、訓練次第で能力をいくらでも高められると信じている「成長マインドセット」を持つ人は、自分の力を最大限に発揮できるが、能力は生まれつき決まっていると考える「固定マインドセット」の人は失敗を恐れて、素質があっても力を十分に発揮できない、というのがドゥエックの主張だ。

 ナデラが、社内に成長マインドセットを浸透させるために、まず実践したのが、トップが自分自身で毎日、3つの点において、成長マインドセットを行動で示すことだったという。その3つとは、顧客を第一に考え、多様性(ダイバーシティー)を受け入れ、団結した一つの会社として活動すること。こうして成長マインドセットを行動で示すことが、ミッションを実践し、世界を真に変えていくことにつながるとナデラは考えた。

 第一に、できる限り顧客のことを考えた。わが社の事業の核には、まだ漠然としている顧客のニーズ、満たされていないニーズを優れたテクノロジーで満たそうとする好奇心や熱意がなければならない。そのためには、これまで以上に深い洞察力と共感力で顧客のニーズを吸い上げる必要がある。(中略)

 第二に、積極的にダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(多様性を尊重し受け入れる包括性)を追求すれば、会社はベストの状態になる。(中略)多様性を受け入れれば、それぞれが自分の偏見を修正し、進んで態度を変え、社員全員の総合的な力を利用できる。違いを重視するだけでなく、それを積極的に探し出して、内に取り込む。そうすれば、アイデアを改善し、製品を向上させ、顧客のニーズにいっそう応えられるようになる。

 そして最後に、マイクロソフトは一つの会社(One Microsoft)であって、派閥の集合体ではないということだ。縦割りの組織は、イノベーションや競争の妨げでしかなく、その壁を乗り越えていかなければならない。マイクロソフトは、一つのミッションの下に個々の人間が団結した家族のようなものだ。しかしその目的は、組織の中に閉じこもって慣れ親しんだ仕事だけをこなすことではない。むしろ安全地帯から出て、顧客が必要としているものを進んで提供することだ。(中略)ほかの人のアイデアを足場とし、さまざまな壁を越えて協力し、統一のとれた一つの会社として、マイクロソフトの最上の部分を顧客に提供できるようにしなければならない。(『Hit Refresh』chapter 4より)