ハードからサービスへ大胆に舵を切ったコマツ

 製造業の事例としては、コマツが挙げられる。コマツと言えば有名な「KOMTRAX(コムトラックス)」がある。コムトラックスは一言で言うと、トラクターやブルドーザーに通信モジュールをつけて稼働状況を自動で把握するビジネスだ。車両位置と稼働状況がわかるから、メンテナンスの時期や交換部品が事前に予測でき、最適な配置、保守管理、移動管理、省エネ運転支援などが実現できる。レンタルしている車両の場合は、保守管理と同時に、ユーザーの利用状況(支払い能力の指標でもある)が把握できる。大成功した事業モデルだ。

 コマツは、2017年11月から、NTTドコモ、SAPジャパン、オプティムとの合弁会社ランドログを通じて、建設現場向けクラウドサービス「LANDLOG(ランドログ)」の提供を始めた。

 このサービスは、従来のビジネスと矛盾するところがある。実際の工事現場において、顧客はコマツの製品だけを使っているわけではない。コマツは工事に必要な建機をすべてそろえているわけではないからだ。例えば、他社製のダンプカーの稼働状況もわからないと、穴を掘って、基礎工事をする際の進捗管理はできない。今回始めたランドログでは、自社以外の製品にもデバイスを取り付け、稼働状況をすべて把握する。

 建設現場の現況を把握するためドローンを飛ばして測量データをつくり、それを使って作成した図面を元に進捗管理する。そして、進捗状況を見ながら、あとこのくらい人や資材が必要だとか、ブルドーザーがこれだけ必要とか、もういらないとか、こういう動かし方をしようとか、最適に調整していく。この一連の工事全体の管理をサポートするデータプラットフォームがランドログである。

 もう一つの特徴は、他社へのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の公開である。データを完全に集めるためには、他社の機器からデータをもらうためのAPI公開が必要だ。同時に、ランドログのデータを分析して、人や車両などでの最適管理を行うには、アプリが必要になる。たとえば、トラックの稼働状況を管理するアプリ、セメントの投入量を計算するアプリなどだが、コマツが全部のアプリを用意できるわけではない。そこで、APIを公開し、外部のデベロッパーがアプリを提供できるようにした。ランドログにつながるハードもソフトウェアもオープンなのが特徴で、プラットフォームとして収益を上げる事業モデルである。このビジネスは、今までのハードのシェアを高めていく戦略とは矛盾する。

 コマツは世界第2位の建機メーカーだが、ランドログには「ハードだけの販売では限界がある。ユーザーの生産性を上げていくためにはオープン化戦略に切り替え、ハードビジネスからサービスビジネスへ移行しなければならない」という覚悟が表れている。もちろんハードビジネスをあきらめているわけではなく、両利き経営でいこうとしている。

 既存の事業との矛盾をうまくマネジメントできない企業が多い中で、コマツは突き抜けた形で一つのあり方を示している事例だ。

(次回に続く)

サティア・ナデラ Satya Nadella
マイクロソフトの最高経営責任者(CEO)。40年あまりの歴史を持つ同社の第3代CEO。情報科学の修士号取得のため、21歳の誕生日にインドのハイデラバードから渡米。アメリカ中西部やシリコンバレーでの経験を経て、1992年にマイクロソフトに入社。以後、同社のコンシューマー、エンタープライズ両部門で、さまざまな製品やイノベーションを主導する。マイクロソフトでの役職に加え、フレッド・ハッチンソンがん研究センターの評議員、スターバックスの取締役も務めている。また、妻のアヌとともに、シアトル小児病院や、シアトルにある障害者ら向け施設を個人的に支援している。Photo©Microsoft
マイクロソフトCEOであるサティア・ナデラの初の著書。過去に大成功したゆえ、守勢に回り、モバイル化とクラウド化の波に乗り遅れたマイクロソフトをいかに立て直したかが、現役CEOの本音とともに赤裸々に描かれている。