モバイル化とクラウド化の波に乗り遅れたと言われるマイクロソフト。確かに、モバイルでは、グーグルの先行を許した上に、Windows Phoneによる逆襲を狙ったノキア買収も失敗に終わり、クラウドでもアマゾンの先行を許した。その間のグーグルやアマゾンの急成長ぶりに比べると、マイクロソフトの成長はかなり見劣りする。しかし、そもそもマイクロソフトのお家芸は、先行企業にキャッチアップする「追い上げ戦略」にある。収益力の高い既存事業がある以上、既存事業とバッティングするところがある新規事業への取り組みが遅れるのはやむをえないことで、むしろかなりの速いスピードで追い上げていることを評価すべきだろう。

 近年のマイクロソフトに対しては、モバイル化とクラウド化の波に乗り遅れたという批判がある。確かに、そういう面はあるかもしれないが、そもそも大成功した企業には、利益を生む既存のビジネスがあるので、既存ビジネスと矛盾する部分があるような技術革新の新しい波に乗るのに時間がかかるのは、当然のことである。

 また、もともとマイクロソフトは、歴史的に見て、ファーストペンギンにはならないけれど、先行企業をキャッチアップするのが得意な会社であり、モバイル化とクラウド化に関しても、遅れたというより、むしろ非常に早く対応したと私は評価している。今回は、同社CEOのサティア・ナデラの近著『Hit Refresh』を通じて、マイクロソフトの「追い上げ戦略」について見ていきたいと思う。

ビル・ゲイツの時代から「追い上げ」が得意な会社

 まず、マイクロソフトのここ数年の業績を見ていただきたい。

マイクロソフトの業績推移

 以前に比べると、利益率が少し下がっていることに注目してほしい。『Hit Refresh』に詳しく書かれている通り、マイクロソフトは2014年2月にナデラがCEOに就任してから、「クラウドファースト」という大方針を掲げ、クラウド事業を強力に推し進めているが、それによって、利益率が少し下がっている事実を冷静に見ないといけない(それでも、営業利益率は25%水準にあり、たとえばアマゾンよりかなり高い)。

 つまり、クラウド化推進のためデータセンターなどへの巨額の先行投資を実施し、減価償却負担などで営業利益面ではやや苦しんでいる。しかし、一方では売上高はしっかりと維持している。つまり、マイクロソフトは、売り上げを維持しながら事業内容を上手に転換している会社だと言える。

 なぜそれができるかというと、既存ビジネスを全否定して事業を再構築するのではなく、既存事業が元気なうちに、先行企業が切り開いている新技術事業への追い上げを開始しているからだ。その際、単に先行企業の真似をするのではなく、既存の資産を生かしながら、自社の特徴を出して追い上げるので、成功しやすい。

 こうした「追い上げ戦略」は、マイクロソフトの40年の歴史を振り返ってみても、同社が得意としている“お家芸”であることがわかる。

 たとえば、ウェブブラウザーのインターネット・エクスプローラー(IE)は、ネットスケープ・ナビゲーターの後追いで開発し、追い上げ戦略で成功した。その際、Windows OSという既存の資産を生かし、高シェアのOS(最初はWindows 95)にIEをバンドルすることで顧客を囲い込み、ネットスケープの牙城を崩していった。

 今回のモバイル化、クラウド化の推進においても、Office 365の先行はグーグルのGoogle Apps、Microsoft Azureの先行はアマゾンのAWSというように、先行企業をマイクロソフトが追い上げる形となった。

 Officeは、パッケージ製品として大成功したソフトだ。パッケージなら数万円(Office Professional 2016は、6万4584円)で売れるが、ナデラが主導するマイクロソフトは、モバイル化、クラウド化に対応するため、月額1000円強(Office 365 Soloは、月額1274円、年払い1万2744円)でライセンスするサブスクリプションモデルへの切り替えを推進している。