薄底か厚底か

 年末に話題となったTBS系ドラマ「陸王」。池井戸潤さん原作の人気小説をドラマ化したもので、老舗の足袋製造業者がランニングシューズ開発に挑む姿を描いたものでした。

 クリストファー・マクドゥーガルが「ワラーチと呼ばれる、タイヤで作った草履で走る民族」を紹介した書籍『BORN TO RUN 走るために生まれた ―ウルトラランナーVS人類最強の“走る民族”』がヒントとなっているこのドラマ。ワラーチと同じ考えで、「薄底の足袋をレーシングシューズに落とし込んで開発する」のですが、従来、日本長距離界では日本人は欧米人のような骨格ではないから、厚底のシューズではなく、薄いシューズで地面からの反発力をもらいながら走っていくもの。「薄くて軽いシューズが良い」と考えられていました。そのため、薄いシューズでのダメージに耐えるためには地道な走り込みが必要だ、と。そういう背景もあって、原作『陸王』を読んだ時は「足袋とレーシングシューズ」という組み合わせに「なるほど! そうきたか!」と膝を打ったのでした。

 しかし、今年の5月。大きく歴史が動きました。NIKEによる「BREAKING2」プロジェクトが発表されたのです。アスリート、科学者、デザイナーたちが一丸となってフルマラソン2時間切りを目指すこのプロジェクトで発表されたシューズに、世界中のマラソンファンは度肝を抜かれました。NIKEが2時間切りのために開発した高速レーシングシューズとは、それまでの厚底シューズよりもさらに分厚い、「超厚底」シューズだったのです。

 発表後、様々なレースで好記録を生んでいたものの、まだまだ日本では「あのシューズは骨格の違う欧米人向け」という印象がありました。が、今年の9月のこと。設楽悠太(東洋大OB/HONDA)がこの超厚底シューズ「NIKE ZOOM VAPORFLY 4%」を履いて、ハーフマラソン日本記録を更新。そして翌週にベルリンマラソンを2時間9分3秒の自己ベストで走り、日本に衝撃が走りました。

ハーフ日本新、マラソン自己ベスト更新の設楽悠太選手の足元には、ナイキの「超厚底」が
ハーフ日本新、マラソン自己ベスト更新の設楽悠太選手の足元には、ナイキの「超厚底」が

 もともと線の細い設楽選手がハーフで日本記録を出し、翌週にフルマラソンでサブ10(2時間10分を切ること)をしたことから、このシューズが衝撃吸収にすぐれ、レース後半にも脚がもつシューズではないか。つまり、箱根駅伝のようなロードにも使えるのではないか? と、話題になりはじめたのです。

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