80年代バブルファッションが密かに続くわけ
ドン小西、「“大衆ファースト”の反動で独創性に脚光」
今度のバブルの足音は、まず女の子のメイクから聞こえてきたーって、別にバブル時代並みの好景気が、ドコスコ足音を立ててやって来たわけじゃない。金回りはそのままに、バブル風カルチャーだけが、リバイバルしたっていう話。
「FICCE」というファッションブランドで80年代バブル期を駆け抜けた、デザイナーのドン小西さん(中)。今回のブーム再来の背景を聞いてみた。(写真:Yumeto Yamazaki/アフロ)
ざっと振り返ってみると、太眉や赤リップなど、バブル時代みたいなメークを町でよく見かけるようになったのが数年前。その後2016年には、太眉&赤リップの芸人、平野ノラが、巨大な携帯電話を手にした「しもしも~」などのバブルネタで大ブレイク。で、「そういえば、バブル時代のトレンドが戻って来てない?」とか、誰かが思いつきで言ったんだろう。昨年後半は、バブル時代のファッションやら何やらが再注目される「バブル」ブームという言葉をよく聞くようになっていた。
エーゲ海に別荘、ビンゴの景品は現金
さらに遡ると、バブルとは1990年前後のものすごい好景気時代のこと。それこそ太眉に赤リップの女の子たちが、アメフト選手みたいな肩パットのボディコン服で風を切り、なぜかお扇子を振って踊っていたとされる時代のことを言う。
ちなみに自分はバブル期、すでにアラサー。さすがにジュリ扇は振ってないが、お父さんの給料は毎年上がり、お小遣いも増額、家はどんどん大きくなり…という右肩上がりが永遠に続くと思いこんでいた高度成長期キッズだもの。バブルのまっただ中にいたときは、あれが異常な好景気だったとは夢にも思わず、ましてや崩壊するなんて、考えもしなかったという脇の甘さだ。
そんなわけで、特別浮かれてバブルを満喫した記憶もないのだが、今考えると、たしかにみんなヘンなことをいろいろやっていた。知り合いがエーゲ海に別荘を買ったり、忘年会のビンゴの景品が現金だったり、会社の旅行が箱根の高級旅館だったり。今、そんなことやってる人、どこにもいないもんね。
なかでも、なぜかはっきり覚えてるのが、その頃よくやっていたホームパーティー。あるとき、しゃぶしゃぶパーティーをしようということになり、自分が買い出し係を命じられたことがあった。その日、近所のスーパーで買った肉がなんと100g3000円と100g5000円のコンボ! それもキロ単位で、事もなげに買う小娘たち。今ならきっと、割り勘の参加者から袋だたきに遭うだろうが、当時は誰も文句を言わず、「やっぱり3000円はイマイチだね」とか言って食べていたっけ。ありえない。
「バブルのバブル」は続いている
とまあ、そんなバブル時代の思い出話も、崩壊した後ろめたさがあったんだろう。バブル世代は崩壊後、かたくなに口をつぐんで、語られることも少なかった。だいたいバブルを知らない世代に自慢しても、「はあ、そうですか」と氷のように冷たい目で見られるだけだし。自分もバブル話は自虐ネタとしては使っても、自慢するなんて滅相もございません。したくても、ほとんどする機会なんてなかったと思う。
ところが、平野ノラがブレイクしたり、CMでボディコンの田中美奈子が踊り始めるや、風向きがすっかり変わる。バブル自慢は若い人にも受けがよくなり、おじさんおばさん上司と若い部下みたいな、”異文化コミニュケーション”になくてはならないキラーコンテンツになってきた。長年我慢していたバブル自慢が解禁されて、バブル世代もふっきれたんだと思う。自分も気がつくと「知り合いがエーゲ海にさあ」とか、若い人相手に、自慢げにバブルを語ることが増えていた。
で、ここからが本題。今年に入ってからは、芸人のブルゾンちえみや、ボディコンに身を包んだバンド「ベッド・イン」の真っ赤なリップくらいにしかバブルの影を見ないような気がするが、「バブル」ブームはどうなったのか。実は今回は特別ゲストを呼んでいる。バブルと言えばこの方。「FICCE」というブランドで80~90年代を駆け抜けた、ファッションデザイナーのドン小西さんだ。ちなみに「FICCE」は90年代当時、芸能人やミュージシャンがこぞって着るブランドとしても有名だった。
ドン小西さんも当時は、「(実は話が通じない)イタリア人のイケメン秘書」をはべらせたり、フェラーリでコンビニに牛乳を買いにいくなど、バブルを満喫したが、90年代後半になって崩壊。数年前、巨額の借金をようやく返済したことが話題になったりした。
今回の「バブル」ブームでは、バブルを知らない世代が、ド派手でパワフルなバブルファッションに注目。さすがに当時のOLを真似て、ボディコン+ゴールドアクセサリーで出勤する女子まではいなかったが、バブル時代のファッション写真が盛んにシェアされるなど、「バブルすげー」コールが巻き起こった。
と同時に、バブル期のアイコンとしてドン小西さん自身も注目されて、あちこちのファッション誌に引っ張りだこ。「バブルのバブル」が来ていると小耳に挟んだんですけど、その後、「バブル」ブームってどうなりました?
「バブルの取材は、今もちょこちょこあるよ。ブームはまだ続いてるんじゃないかね。一番よく聞かれる質問は、『なんで今、バブルファッションが注目されてるんでしょうか?』。たださ、その前にバブルファッションっていう言葉はおかしいよね。正しくは80年代ファッションだろう」
と、まずはダメ出し。要はこういうことだ。肩パットもボディコンも、当時、世界で流行していたものを好景気に浮かれた日本人が買いあさっただけ。バブルだったのは日本だけで、バブルだから生まれたものじゃないらしい。だから「80年代ファッション」と呼べと。分かりました。じゃあ、なんで80年代ファッションが注目されてるんですか?
「理由はいろいろあると思うよ。ここ数年、”究極の普通”とも訳されるトレンド『ノームコア』とか、(ジーンズにシャツを合わせるような)一見すると何の変哲もないごくフツーのファッションがトレンドになったりしてる。その反動で、80年代のアクの強いファッションが新鮮に映るっていうのもあるだろうね」
今は失われたファッションの独創性に脚光
ちなみにドン小西さんは、「地球の男の数は35億(人)」とか、バブル臭漂うネタで人気になっているブルゾンちえみのネタにも登場したことがある。ファッションデザイナーのコシノジュンコさんをリスペクトしているとかで、80年代風ファッションやメイクの女社長に扮したブルゾンちえみが言うのだ。「ドン小西にファッションを教えたのはワタシ」。
どんな気分か聞いてみると、意外にもこんなお答え。
「当時のファッションと一緒に、バブル期のパワーを今に伝えてくれるのは、素直にうれしいよ。だって今回の『バブル』ブームで改めて思ったけどさ、ファッションの立ち位置が激変しちゃったもんな」
かつてモードといえば、一般大衆はため息をつくだけの高嶺の花。独創性を持ったデザイナーが一部の人に向けて作ったファッションが、大衆を魅了し、時代を引っ張っていくものだったという。
「ところがストリートファッションの興隆やSNSのおかげかね。今は一般大衆のほうが主役の”大衆ファースト”。まず大衆に受け入れられないとトレンドも始まらない」
最近のファッションは、よく「マーケティングがデザインしている」と言われるという。かつては大衆を引っ張る立場だったファッション界も、大衆受けするものを探して服を作るように。「こんなんじゃ、新しいクリエーションなんて生まれっこないって」と、ドン小西さんは言う。
まあ、一般大衆にとってはどっちがいいんだか悪いんだか分からないけど、ファッションにしても何にしても、バブルの頃のような妙にざわざわしたときめきを感じることがなくなったのは確かだ。そんな、リアルバブル世代には、うれし恥ずかしの「バブル」ブーム。まだやってますか。そうですか。
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