革新的な技術などが登場し、爆発的に普及しそうになると、その年を「なんとか元年」と呼ぶことがある。デジタル時代になって、普及のスピードが速まったからなのかも。昭和の時代は技術革新が起こっても、「電気洗濯機元年」とか、「オートマ自動車元年」とか、あんまり言われなかった気がするけど、Windows95が登場した1995年の「インターネット元年」以降、やたらと「なんとか元年」がやってくるようになった。
例えば、2001年頃の「ブロードバンド元年」とか、2004年頃の「フィッシング詐欺元年」とか、2010年前後の「スマホ元年」とか。まあ、このへんは元年あたりからほんとに爆発的に広まったけど、なかには業界の希望的観測で元年認定されたものもあり、「元年が来たぞ、来たぞ」と言われたにも関わらず、結局何年たっても爆発しないでスカが続く技術もあった。
なかなかやって来ない「電子書籍元年」
何年たっても実現しない「なんとか元年」の最近の例は「電子書籍元年」。(©Antonio Guillem-123RF)
自分も記事で何年も、「いよいよ元年が来る」と書いたのに、いつまでたっても普及が爆発しなかった事故物件的「なんとか元年」がいくつかあった。「電子書籍元年」なんかが、そのいい例だ。
別に電子書籍業界から何か握らされたわけではないのだけれど、見やすくて軽い、その便利さにすっかりノックアウトされ、AmazonのKindleが発売され、アップルのiPadが加わって、リーダー環境が出揃った2010年前後、「電子書籍元年がやって来る!」と3~4年間は書き続けた気がする。
でも、読者のみんなごめん。電子書籍の市場規模は拡大しているが、2月24日に発売された村上春樹の長編小説「騎士団長殺し」だって電子書籍の発売はないし、2017年の今になっても、電子書籍元年が来たか、来てないかと言われれば、やっぱり来てないわけで。いや、もしかしたら今年来るのかもしれないから、言っておこう。2017年はいよいよ電子書籍元年(かも)。
重要な仕事は人間よりAIにお願い!
と、告白してさっぱりしたところで、電子書籍以外の「2017年のなんとか元年」について紹介したい。とくにここ数年は、「なんとか元年」の当たり年が続き、「インバウンドビジネス元年」「VR(バーチャルリアリティ)元年」「AR(拡張現実)元年」「ドローン元年」「仮想通貨元年」など、大物元年が相次いでいる。
そして2017年物としてよく見かけるのが、「AI(人工知能)元年」というやつだ。チェスや将棋などで人を負かしたり、ユーザーの質問に答えたり、時には話し相手をしてくれたり、人の好みを解析して興味あるニュースを配信してくれたり、はたまたくまなく床を掃除したり。
AIはすでに私の身の回りでもよく働いていて、ネットとつながる家電などに使われる技術「IoT」が普及した2014年頃には、「AI元年」という言葉もちらほら見かけるようになった。「何を今さら」感もあるにはあるのだが、どうやらこれはスカではないみたい。ゲームやおしゃべりなどのエンタメ分野や広告配信など、まあ、言ってみれば責任のないバイト仕事みたいなことができるAIはすでに爆発的に普及しているが、人の命に関わる仕事など、何かあったときに責任を負わされるような重要な仕事を任されるAIは身近にそうはたくさんなかった。
今後はそう遠くない将来、医療や運転など、失敗が許されない責任重大な仕事ほど、ミスを最小限に抑えられるAI搭載のロボットが請け負うようになるとの説もある。テレビドラマ「ドクターX」の大門未知子が「私、失敗しないので」なんてうそぶいても、「A LIFE」の沖田先生が「絶対に救うから」とかっこつけて言っても、「せっかくですが私の手術はロボットでお願いします」なんて言われる時代が、もうすぐ来るという人もいる。
2017年は、AIがバイト仕事を脱して、そうした責任あるミッションを任される年の始まり。そんな意味での「2017年はAI元年」なのだ。
期待のAIはレベル3の自動運転車
例えば大きな進歩がありそうなのが、自動運転車。何か起こったとき、システム(自動車メーカー)がすべての責任を負う完全自動運転車には法整備など色んなハードルが残っているので、自分がよぼよぼのおばあさんになったころ、ギリギリ運転できるかどうかくらい先な気もするが…。いや、もうそのころには「運転する」っていう言葉も死語になっているのだろう。
責任は人側にあるとしても、AIが華麗な運転テクを発揮する場面はどんどん増えて、たとえば2017年には、レベル3の自動運転車がいよいよ実用化されると噂されている。自動運転車のレベル分けには、今のところ0から4まであって、大ざっぱにいうと「レベル1」は自動ブレーキや自動ハンドルなどの単品機能をシステム(つまりAI)にやってもらうもの、「レベル2」はブレーキ、ハンドル操作などの操作を複数組み合わせてやってもらうもの、「レベル3」は「運転」と呼ばれるほとんどの操作をシステムにやってもらうものをいう。
じゃあ、レベル3は自動運転じゃん?と思いきや、これが違うんだな。しつこいのだけど、責任はやっぱり運転者にあり、そのためシステムに何かあったときは人がとっさに手を出せるように、ハンドルに常に手を置いておくなど、運転の準備をしておかなくてはいけない。
ちなみに自分はレベル2相当として2016年に登場した「新型セレナ」(日産自動車)で、AIのドライブテクを体験させてもらったことがある。それにしても「プロパイロット」と呼ばれる運転支援機能は運転がうまい。例えば自分が何度か汗びっしょりで運転したことがあるクネクネカーブが続く高速道路でハンドルの手を緩めても、涼しい顔で安定のステアリング。アクセルとブレーキ支援で車間もきっちり設定通りにキープするなど、すでに私より運転テクはずっと上で、その後しばらく、AIなしの丸腰で高速道路を運転するのがかえって恐ろしくなった。
運転の主役はあくまで自分としても、「レベル3」となれば、加えて車線変更などもやってくれるようになるとか。実は2016年中にもレベル3実用化の噂はあったけど、実現に至らず。2017年は今年こそという意味で、「2017年はAI元年」命名の重要なバックグラウンドになっている。
密かに注目の「スマートタグ」元年
ほかに検索してみると、2017年は「有機EL元年」とか、2016年から言われている投資のアドバイスをするAIが普及する「ロボアドバイザー元年」とか、あと元年に違いはないが、内容は誰にもさっぱり予測できない「トランプ大統領元年」など、今年もさまざまな分野の元年が出そろった。
ちなみに自分が今年の「なんとか元年」として目を付けているのはコレ。落とし物発見器「スマートタグ」元年だ。クラウドファウンディングで資金を集めてアイデアを製品にする小規模メーカーが世界中で増加。そんな別名「(ひとり)ぼっちメーカー」が、やたらとスマートタグを開発している。
別名「トラッカー(追跡者)」とも呼ばれ、鍵や財布など大事なものにつけておき、自分から距離が離れるとスマホでお知らせしてくれたり、スマホのGPS機能で位置情報を記録して、どこで落としたかを教えてくれたりする。米国のクラウドファンディングで資金を集めた老舗メーカー「TrackR」の製品や、ソニーがデザインに関わっているQrio社の「Qrio Smart Tag」、はたまたフィリップ・スタルク氏のデザインによるおしゃれなスマートタグなども登場して、すっかり元年の様相になってきた。
自分も何種類か持っているが、スマホと連動する仕組みのため、無くすことが一番多いスマホに取り付けても、無くしてるわけだから、そのスマホでは探せないのが痛いけど。あと、IoTって結局これ?とツッコみたくなるようなしょぼさもあるけど。デザイナーズものまで登場したとあれば、普及が爆発する日は近い…かも?
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